不二製油グループ|最高ESG経営責任者に聞く、ESG経営とその施策【後編】 | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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インタビュー

不二製油グループ本社株式会社取締役 兼 上席執行役員 C"ESG"O(最高ESG経営責任者)門田 隆司氏不二製油グループ|最高ESG経営責任者に聞く、ESG経営とその施策【後編】

今回は、不二製油グループ本社株式会社の取締役 兼 上席執行役員 「C"ESG"O」である門田氏、およびESG経営グループの平松氏、山田氏にインタビュー。C"ESG"Oという役職を設置した経緯や、社会課題解決に向けたESG経営の方向性、社内への理解浸透と実務についてお尋ねしています。後編は、事業の実例や課題、SBTの取得などについて、伺いました。

【写真】C"ESG"O 門田隆司 氏

前編はこちら

ESG経営の真骨頂!植物性由来の食品を通じて、社会課題へのソリューションを提供するPBFSとは?

アミタ:具体的に、ESGの考え方と御社の事業が統合した例はありますか?

門田氏: 2050年には人口が98億人に達するともいわれており、食料不足が大きな課題となります。その中で、これ以上動物性食品の生産を増やしていくことには限界があると思います。例えば、牛肉は大豆に比べて生産過程でCO2排出量や水使用量が多く、地球環境への負荷が大きいです。そうした状況の中、動物性食品に代わる高品質なたん白源の一つとして大豆に注目しています。
 これまで植物由来の代替食品は、動物性食品に比べ味が劣るという課題がありました。しかし、技術開発は大きく進歩しています。2019年9月には、大阪の大丸心斎橋店に「UPGRADE Plant based kitchen」を出店し、大豆ミートを使用したハンバーグや唐揚げ、ラザニア、サラダ、デザートなど多様なメニューをご提供しています。

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写真:「UPGRADE Plant based kitchen」店内の様子と大豆ミートを利用した提供メニュー


アミタ:私たちも訪問させていただきました。メニューも豊富で、味も触感も大豆でできていると信じられないくらいどれも美味しかったです。

門田氏:こうした植物性由来素材の代替食品事業は、コスト面も考慮し、まずは先進国へアプローチをしていますが、今後はアジアやアフリカで起こり得るたん白不足にも貢献できるはずです。
このように、植物性食品素材事業を通じて、社会課題に対する解決策を見出し、ソリューションを提供する事業を弊社では、PBFS(Plant-Based Food Solutions)と呼んでいます。さらに、たん白源と植物油脂を融合させた健康食品の開発や、乳化・発酵素材の事業の展開、豆乳チーズや豆乳クリームといった植物性素材などの開発も進めています。PBFSの概念はあらゆる事業にかかわるものだと考えています。

ステークホルダーからの反応と、ESG経営の"課題"とは?

アミタ:人口増加が予想される中、植物性由来の食品はまさに社会課題の解決につながると思います。そうした御社の取り組みに対する、ステークホルダーからの反応はいかがですか?

山田氏まだまだこれからではありますが、お客様や投資家の皆様、ESGに関して高い意識や知見をお持ちの方から評価をいただき始めています。

門田氏弊社のサステナビリティに関する取り組みが伝わり、お客様からお声がけをいただけるようになっただけではなく、投資機関から条件面で優遇していただいたこともあります。皆様から評価をいただけるようになったというのは、これまでの取り組みに意義があったからだと思います。サステナビリティの分野は、遅れて対応するとコストになりますが、いち早く取り組むことでアセットに変えていけると実感しました。

アミタ:御社が、ESG経営をさらに進めていくに当たり、課題となっていることは何でしょうか?

門田氏:お客様が求める製品を作り出す力や、そのための技術力は高いと思う一方、お客様に製品を届ける際にSDGsの観点を活かしたマーケティングを行うことに課題を感じています。機能やコストパフォーマンスだけでなく、社会的価値を高めることで、利益も同時に生み出すことができます。そうした意識を持ちつつ、CSVの考え方等を取り入れ、顧客に対する新しい価値提案ができるようにしていきたいと考えています。

アミタ:仰るように、社会の潜在的ニーズにアプローチするためには、発信力が必要ですね。財務と非財務の統合を阻むものがあるとすれば、それは何だとお考えですか?

門田氏近視眼的発想だと思います。結果が今年の損益計算書に表れてこないと、社内の動きはどうしても活性化しにくいです。しかし海外のグループ会社ではすでに何年か先を見て、どのようなサステナビリティが必要なのか考えるべきだと主張しています。「今年の利益をある程度度外視してでもESGに取り組まなければ、10年後の利益に繋がらない」というのは頭でわかっていても実践するにはなかなか難しい。それを理解してもらうのが、C"ESG"O の使命だと思います。

SBTの取得について

写真2.jpgアミタ:企業のCO2排出削減目標の基準を示すイニシアチブの一つにSBT(Science Based Targets)があります。御社では、最近SBTの取得をされていますが、取得を決めた経緯を教えてください。

門田氏:もともと10年以上前に環境ビジョンを策定しましたが、海外では早めに達成してしまいました。新しく目標を検討する際に、SBTはパリ協定で採択された2℃目標と整合しているため、この取得は最低限必要なことだと思いました。

アミタ:社内の理解はスムーズに得られたのでしょうか?

門田氏:国内外問わず、技術部門や生産部門からは、「なぜ達成が困難な目標を設定するのか」と疑問の声があがりました。しかし、世界中の自社工場を回り、取得の必要性を丁寧に説明することで最終的には納得していただくことができました。

平松氏:SBTは高い目標ではありますが、取り組みが必要な背景が科学的な知見を持って論理的に説明されています。そのため、社内の人にも納得してもらいやすいという側面はあると思います。

アミタ:2019年には、SBTの CO2削減目標は「2℃未満」から、「1.5℃未満」または「2℃より十分に低い」に基準の引き上げがありました。貴社では「2℃より十分低い」の目標を設定されていますが、どのように目標を定められたのですか?

平松氏:試算をしてみると、「1.5℃」の場合は約60%のCO2削減が必要であり、「2℃より十分低い」の場合は40%のCO2削減が必要であることがわかりました。社会的には1.5℃目標が良いことは明らかですが、社内で議論をした結果、60%削減というあまりにも高すぎる目標では、社内のモチベーションが湧かないのではないかということで「2℃より十分低い」レベルに目標を設定しています。

門田氏:実際に削減に取り組む現場や、生産技術部隊が腹落ちをしてくれないと意味がないと思っています。ただし、最終目標は実質0であることは変わりません。経団連のチャレンジ・ゼロ(チャレンジ・ネット・ゼロカーボン・イノベーション)にも賛同しており、今後社内の理解や意識が高まった際には、より高い目標へと変更できるよう準備を進めています。

アミタ:ありがとうございます。ESG経営の重要性を感じていてもなかなか実働に落とし込む点で苦労をされている担当者の方も多いと思います。"どのように社内理解を促進し、事業と結び付けてこられたのか"など非常に勉強になりました。本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

話し手プロフィール

Fujiseiyu_004.jpg門田 隆司(かどた たかし)氏
不二製油グループ本社株式会社 取締役 兼 上席執行役員 C"ESG"O(最高ESG経営責任者)


広島大学大学院工学研究科を1983年に修了し、不二製油に入社。入社後、技術開発部門において長く職務に携わる。また、米国、中国における駐在経験を持つ。
2018年4月より、最高品質責任者として当社グループの安全・品質・環境戦略を担った後、
2019年4月より最高ESG経営責任者としてESG経営の推進役を担う。

平松 義章(ひらまつ よしあき)氏
不二製油グループ本社株式会社 ESG経営グループ サブリーダー CSR 兼 環境チーム リーダー

山田 遥(やまだ はるか)氏
不二製油グループ本社株式会社 ESG経営グループ CSRチーム

聞き手プロフィール(執筆時点)

中村 圭一(なかむら けいいち)
アミタ株式会社
サステナビリティ・デザイングループ ソリューションチーム ユニットリーダー

静岡大学教育学部を卒業後、アミタに合流しセミナーや情報サービスの企画運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析や製造、営業とアミタのサービスの上流から下流までを幅広く手掛ける。現在は分析力と企画力を生かし、企業の長期ビジョン作成やSDGs経営戦略立案などに取り組んでいる。

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