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インタビュー

IIRC統合報告フレームワークパネルメンバー 森 洋一 氏情報開示における大きな2つの方向性とは?【前編】

本日は、企業が持続的に成長していくためにどのような情報開示をするべきかについて、国際統合報告評議会(IIRC)統合報告フレームワークパネルのメンバーである、公認会計士の森洋一氏にお話をうかがいました。このインタビューは7/16放送の「未来開拓者ラヂオ」をもとにしています。

※写真:未来開拓者ラヂオより
(アミタHD蝦名(左)、アミタHD岩藤(中)、森氏(右))

情報開示における大きな2つの方向性とは? 【前編】 【後編

情報開示における2つの大きな世界的方向性とは?

mr.mori_001.jpg蝦名:国際標準となる情報開示の枠組みづくりに携わっていらっしゃる森さんに、企業の情報開示における世界的な動向をお聞かせいただきたいと思います。

森氏:国際会議で、様々な企業・投資家の方々と企業報告・情報開示の枠組みづくり・議論に参加しています。このような取り組みは5年ほど前から非常に活発になってきました。

その中で感じた、今後情報開示に求められる大きな方向性が2つあります。1つは、経営者自身が自らの言葉・視点で「自社の実力」や「価値づくりへの戦略」といった『企業価値』の全体像を伝えることです。特に以下の3点がポイントです。

  • 個別の取り組みではなく、全社的なビジョン、戦略を語り、実績を報告する
  • 実績も財務と非財務・ESG(環境・社会・統治)の側面を報告する
  • 重要な情報に絞って簡潔に開示する

もう1つは、『未来志向』であることで、英語では「Future orientation(フューチャーオリエンテーション)」という言葉をよく使います。もともとの企業の情報開示は「こんなことをしました」「これだけ儲かっています」「これだけ資産があります」という過去のことを示す開示が主流でした。

しかし、ステークホルダーは会社が将来どうなっていくかに関心があります。特に投資家は、企業のこれからに対して投資します。投資がどう使われ、どういうリターンがあるかに関心があります。CSR・CSVと言われるように、社会の中での企業の意味・役割・責任が問い直されており、過去の情報を前提としながら、その会社や経営者が、どういう会社・商品・サービス・ビジネスモデルを創って価値提供し、利益を出していくのかを未来志向で伝えることが重要だと感じています。

蝦名:このような潮流の背景には、なにか過去の課題や反省などがあったのでしょうか?

森氏:金融市場が非常に短期的志向になっていることが根本的な問題意識として挙げられます。企業が「これだけ儲かっています」という今の状態の開示だけに留まり、この先どうするかを示さなければ、投資家も次年度にいくら儲かるかにしか関心がなくなり、投資行動が非常に近視眼的なものとなってしまいます。

それに対して、より長期志向で企業の価値を伝えるということは、経営者はもちろん、投資家の目線を将来に広げ、その結果、長期志向の市場が生まれることにつながります。このことは、投資家だけでなく他のステークホルダーとの関係も同じで、長期志向、未来志向でのコミュニケーションが非常に重要になっています。

蝦名:情報開示の在りかたが短期的な投資サイクルの一因になっているということですね。

森氏:はい。企業とステークホルダーの間で将来を見据えたコミュニケーションをとることはとても大事なことです。それを公式な情報開示でもやっていこうということが国際的に議論され、先進企業は積極的に取り組み始めています。

国際統合報告フレームワークとは?

mr.mori_002.jpg蝦名:世界には様々な考え方があり、差異もあると思いますが、認識を統一させるようなガイドラインは整っているのでしょうか?

森氏:私が参加しているIIRCという組織は2013年に国際統合報告フレームワークというものを発行しました。他にも、企業行動や財務・非財務の情報開示についてのイニシアティブは多々ありますが、統合報告フレームワークは様々な基準やガイドラインに傘をかける役割を果たすために策定されました。政府・企業・投資家・NGOなど、様々な立場でこの分野に先進的に取り組んでいる人たちが世界中から過程で参加し、あるべき・求められている企業報告について議論をして、集約した文書がフレームワークです。

蝦名:「統合」という言葉が鍵のように思えるのですが、どういった意味が込められていますか?

森氏:「統合報告」と訳していますが、もともとは『Integrated Reporting』です。企業は本来、社会に対して価値を提供して利益を生み出す存在ですが、その「社会に対する価値」と「財務的な価値」を情報として統合するという意味があります。また、「財務情報」・「非財務情報」を統合するという意味もあります。いずれにしても、これまで個別に報告されていたものの関係性や因果をしっかり統合して、企業価値の全体像を簡潔に示していくという意味で使われています。

フレームワークに沿った情報開示をする企業メリットはなんですか?

森氏:フレームワークをよく読み、自分たちの開示に向き合うことを通じて、自社の開示や経営のプロセスの改善につなげる非常に重要なツールであると思います。統合報告に先駆的に取り組んでいる方たちとフレームワークについて話すと「奥が深いね」という意見を聞きます。国際的な基準文書・イニシアティブは、使いながら自らに問いかけて、トライ&エラーで前に進めていくことが非常に重要だと考えています。

また、このフレームワークは企業側が準拠する(すでにある規格や基準、標準に従う)ことを想定して作られています。このフレームワークに準拠した報告を行うと経営トップがコミットメントすることは、それに向けた決心を内外に示すことを意味します。なぜなら、統合報告は一部門だけで実践できるものではなく、会社全体で協力していいものを作り、それを投資家との対話や経営のフィードバック・経営改善に活かすことで、「経営の核心部分に変化をもたらす」ものだからです。

つまり、このフレームワークを使うことで、自社の開示プロセスの改善という内部メリットと、外部に対する信頼性向上というメリットが見込めます。

続く

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プロフィール

mr.mori_profile.bmp森 洋一 (もり よういち) 氏
公認会計士
国際統合報告評議会(IIRC)統合報告フレームワークパネル(<IR>Framework Panel)メンバー

一橋大学経済学部卒業後、監査法人にて会計監査、内部統制、サステナビリティ関連の調査研究・アドバイザリー業務を経験。2007年に独立後、政策支援、個別プロジェクト開発への参加、企業情報開示に関する助言業務に従事。日本公認会計士協会非常勤研究員として、非財務情報開示を中心とした調査研究を行うとともに、国際枠組み議論に参加。

インタビュアー

ebina-001.jpg蝦名 裕一郎(えびな ゆういちろう)
アミタホールディングス株式会社
経営戦略グループ マーケティングチーム タスクリーダー

入社後人事を経て、本社環境部に対する環境教育活動のプロデュース、省庁自治体向けの地域活性化支援などを担当。ソーシャルビジネス関連の調査企画を経て、CSRコンサルティング業務や環境省「活かそう資源プロジェクト」の立上げなどに携る。その後自社の広報・Webマーケティングを中心に担当。現在はCSRJAPANを始めとする事業会社のWebサイト開発・運営などを担当している。

iwado_001.jpg岩藤 杏奈(いわどう あんな)
アミタホールディングス株式会社 
経営戦略グループ 共感資本チーム

岡山県出身。神戸大学卒業後、アミタ入社。学生時代、カンボジアでのボランティア活動を通してエネルギー循環型社会の大切さに気付く。入社後はテレマーケティングやメール・郵送DMなどの非対面営業部門にてアミタの各種サービスの提供、セミナー企画等を担当。2016年からは広報・IRを担当する共感資本チームに配属。同社の「未来開拓者ラヂオ」にてパーソナリティを務める。

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