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コラム

スローイノベーション(Slow Innovation)の時代
3.市民協働イノベーションエコシステムを支える3つのマインドセット
スローイノベーションの時代

turtle.jpgSDGsがますます注目されるなか、企業のCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)の必要性が高まってきています。CSVを成功させるには、行政やNPOを含むクロスセクターの協力関係を丁寧に築き上げ、粘り強く社会イノベーションに取り組むことが重要です。今回は、Slow Innovation株式会社 内 英理香様より、社会イノベーションの基盤となる「市民協働イノベーションエコシステム」について解説いただき「地域から日本を変える」取り組みのヒントをお届けします。

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Photo by Isabella Jusková on Unsplash

社会課題解決のパラダイムシフト

本連載では「1. セクター横断の協創が必要とされる時代背景」と題して、企業において、スローイノベーションの姿勢でCSVによる社会イノベーションが必須となっている時代背景を、そして「2. 協創が生まれる土壌を地域でつくる」と題して、その鍵を握る企業・行政・NPOというセクター横断での協働によって社会イノベーションを起こす「市民協働イノベーションエコシステム」について書いてきました。

社会イノベーションを起こすには「問題を発見したら原因を分析して、理想とのギャップを埋めるための解決策を計画し、実行する」という一直線の問題解決型思考ではうまくいきません。そもそも、唯一の正しい答えなど無い、複雑に絡まりあった社会課題を扱う場合、ある課題の解決に取り組んだら別の課題につながってしまったということも往々にして起こります。

そのような複雑な社会課題を解決するためには「一直線に問題解決の"答え"を探す」という手法から、「良質な"問い"を立て、多様なステークホルダーとの対話を通して協創関係を育み、新しい視点から問題解決の糸口を探る」方向へと、パラダイムシフトしていくことが求められます。
つまり、短絡的な問題の解消を目指すのではなく、市民協働イノベーションエコシステムの中で問題への対応力を高め合う協創関係を育み続けることを目指していくべきなのです。

このパラダイムシフトを支える3つの"持つべきマインドセット"について、ファストイノベーションとスローイノベーションの対比を用いながら、詳しく見ていきます。

1.個人の"強き"・"善き"想いを起点にする

最初のマインドセットは、自分の心が震えるほどの"強い"想いを起点に、社会課題設定をすることです。

ファストイノベーションでは「儲けにつながる」「良いアイディア」が起点となるのに対し、スローイノベーションでは社会課題を解決するまであきらめない、その想いの"強さ"が重要になります。またステークホルダーと協力しあって粘り強く取り組むためには、自分の強い想いを社会的な共通"善"に昇華させることも重要です。

この"強き"・"善き"想いは、社内で提案を通す際にも大きな牽引力となってくれます。多くのイノベーション提案は「十分な市場があるのか?」「これで儲かるのか?」という上司や経営層からの問いに窮し、立ち消えてしまいます。このような「新しいイノベーションに対し、旧来の価値観で評価する」矛盾を乗り越えるためにも「直接的な儲けではなく、必ず社会インパクトを出して企業価値を高めます」と言い切る"強き"・"善き"想いを固めましょう。

2. 多様なステークホルダーを"招き入れる"

次のマインドセットは、良質な問いへの共感をベースとして、多様なステークホルダーを"招き入れる"ことです。

ファストイノベーションにおける協働では、主となる組織が設定した課題に対して、関係するステークホルダーの強みに応じて役割分担を行なっていくという暗黙の前提があるため、"巻き込む"という表現になることが多いように見受けられます。

一方、スローイノベーションにおける協働では、あえて課題の当事者ではない人も含めた多様なステークホルダーとの対話を生み出すことによって、新しい視点が加わり、課題解決に向けた糸口が与えられると捉えます。そのため、非当事者までもが思わず考えたくなってしまうような良質な問いへの共感をベースに、"招き入れる"という表現になるのです。

例えば「子育てのワンオペ」について課題を設定した場合、あなたはどのような問いを立て、どのようなステークホルダーを "招き入れる"でしょうか。

「子育てのワンオペ問題解決のために、市場調査を手伝ってください」という呼びかけでは、多様なステークホルダーとの創発的な対話が起こりにくいことは、想像に難く無いでしょう。
「地域住民みんなで行う子育てとは、どんな形だろう?」というような問いを中心に立て、地域の一人暮らしの学生、商店街の事業者や鉄道会社などの企業で働く人たち、高齢者福祉施設の方々をお招きすると、新しい関係性の中からこれまでに気づけなかった視点を得て、闊達な対話になりそうな期待を感じられます。このように、ステークホルダーへの尊敬と貢献意欲をもって"招き入れる"マインドを醸成しましょう。

3. "観察と権限委譲"のOODAループをまわす

最後は、"観察と権限委譲"のOODAループをまわし、環境変化に即応して自らの方向性を変化させる組織の能力を高めることです。

ファストイノベーションでは、定められた目標設定と課題解決の計画に基づいて、PDCAサイクルを丁寧にまわしていく中央集権型のプロジェクト・マネジメントが適していることが多いでしょう。
これに対し、新しいアイディアを新しい方法で世の中に提供すべく、多様なステークホルダーとの関係性を丁寧に紡ぐプロセスを重視するスローイノベーションは、予測することや計画を立てることが難しく、変化がつきものです。

したがって、PDCAサイクルを回すことよりも、OODAループ(アメリカ空軍出身であるジョン・ボイド氏が提唱した理論)に即して、つぶさに現状を観察し(Observe)、そこから得た情報を元に自らの方向性を変化させ(Orient)、権限委譲されたメンバーが素早く意思決定し(Decide)、行動していく(Act)ことを推進するガバナンスがより重要になってきます。

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図:最も効果的なOODAループ(出典:チェット・リチャーズ著『OODA LOOP』 東洋経済新報社,2019年)

つまり、複雑に絡み合った要因が相互作用している社会課題の解決のためには、ユーザーを観察することからインサイト(洞察)を得て、アイディアを素早くプロトタイプしながら学び、プロセスの成果を確認しながら改善していく基盤を整える必要があるのです。

個人の"強き"・"善き"想いを起点に、多様なステークホルダーを招き入れさえすれば、市民協働イノベーションエコシステムが機能するとは限りません。そこには、組織として環境に即応できるように"観察と権限委譲"のOODAループをまわし、土壌を整えることが必要不可欠なのです。

市民協働イノベーションエコシステムは信頼のプラットフォーム

ここまで、1.個人、2.ステークホルダー、3.組織に対する持つべきマインドセットをお伝えしてきました。社会課題解決の難しさを、殊更に強調されたように感じられた方もいるかもしれません。

しかし、市民協働イノベーションエコシステムの本質は「自分一人では解くことの難しい問題に立ち向かう」ことを超えて、「信頼のプラットフォームの中で異なるセクターと互いに協力し合って問題解決にチャレンジする喜び」にあります。一人ではどうすることもできないように見える問題でも、セクターを超えて手を取り合うことでチャレンジできるのです。皆さんが、市民協働イノベーションエコシステムをともに育み、新しい未来を創発する一歩を踏み出してくれることを願っています。

関連情報

tunageru.pngSlow Innovation株式会社では、社会イノベーションの基盤としての「市民協働イノベーションエコシステム」づくりのために、地域内の企業・行政・NPOなどセクターを超えた30人のマルチステークホルダーが協働する地域主導プログラム「つなげる30人(Project30)」を展開しています。2016年渋谷区からはじまった同プログラムは、2020年現在、京都市、名古屋市、気仙沼市へと広がっています。

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執筆者プロフィール

内 英理香(うち えりか)氏
Slow Innovation株式会社 コミュニティマネージャー

大学卒業後、大手国内系コンサルティング会社に入社。各種業界の人財・組織開発コンサルティングを経験後、ダイバーシティ・コンサルティング会社にてアンコンシャスバイアストレーニングなどの手法を用いた組織開発コンサルティングや、オンライン講座企画営業などに従事。その傍ら、より個人の内面の変容にフォーカスをおいたプロセス指向心理学をベースとした、反転学習型リーダーシップ開発プログラムを自主企画し運営。2020年4月より同社に入社後、企業への社会課題解決型新規事業開発コンサルティングや、行政への市民協働支援を通して、"想いを持った誰もがチャレンジし、ともにより良い未来を創発できる社会"の実現のために活動している。

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