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水銀(水俣)条約が廃棄物処理法の改正につながると聞きました。どのような改正が予想されるのでしょうか。

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「水俣条約を踏まえた今後の水銀廃棄物対策について(案)」によると、石綿やPCBのケースのように、水銀含有の産業廃棄物について契約書やマニフェストへの記載が義務化されたり、その処理が特定の方法や施設に限定される等の可能性が考えられます。また、水銀の環境中への放出がより厳しく規制・罰則化される可能性もあります。

水俣条約締結の背景

水銀に関する水俣条約(以下、水俣条約)には世界92か国が署名しており、水銀の採掘、輸出入、使用、環境への排出・放出、廃棄というライフサイクル全体にわたる規制を求めています。国内での水銀の使用や廃棄は比較的適正に行われていますが、世界的には不適正な使用や管理が多々あり、地球的規模の水銀汚染の防止を目的に締結されました。

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(環境省「水銀に関する水俣条約」の概要)平成25年9月より)

水銀といって私たちがイメージするのは、体温計や蛍光灯、そして水俣病でしょう。しかし、環境中への排出量は、実は水銀を使用した金採掘からの大気排出量が最も多く、次いで火力発電や製鉄所等での化石燃料の燃焼、非鉄金属の精錬、セメントの生産、廃棄物処理の順となっており、これらで全体の80%の排出量を占めています。水銀を使用した金採掘が発展途上国で行われていること、石炭中の水銀が大きな排出源となっていること等は、一般にはあまり知られていません。

水銀は、長距離を移動するため地球全体を汚染すること、生体に蓄積するために食物連鎖による濃縮が著しいこと、神経毒性が高いという特徴があり、規制の緩い国も含めて全世界的な規制が必要です。そのため、多くの国による批准が求められる一方(既述の通り92か国が締結)、水銀の世界最大の排出国である中国や環境規制に後ろ向きの米国も参加したため、水俣条約締結の意義は大きいとされています。

水俣条約の発効により、廃棄物処理の観点からは、以下の2つの影響が考えられます。

①廃棄物処理への規制による直接的な影響
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これまで廃棄物処理法における水銀の規制は、廃棄物処理法で定める26種類の施設(注)から発生する燃え殻・ばいじん・鉱さい・汚泥・廃酸・廃アルカリに含有する場合に限っていましたが、この見直しが検討されています。
(注):26種類の施設詳細

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体温計や蛍光灯は身近ですからイメージしやすいですが、これ以外にも水銀を含有する製品は思いのほか多くありますが、廃棄物処理法で直接規制はされていません。
これらについて、特別管理産業廃棄物として扱う、もしくは契約書やマニフェストに「水銀含有産業廃棄物」と記載させる等の案が検討されています。このように、廃棄物への水銀含有を明確化することで、適切な管理を期待することができます。また、運搬・処分方法が法律で決まっていないため、この点についての規制も検討されています。

<水銀添加廃製品の例>
ボタン型電池、医療用計測器類、工業用計測器類、電球類、水銀スイッチ・リレー、歯科用水銀アマルガム、ワクチン保存剤(チメロサール)、無機薬品
(水銀廃棄物適正処理検討専門委員会 資料 より)

②水銀利用の削減が中長期的に水銀廃棄物の処理・リサイクルに及ぼす間接的な影響

水俣条約により、世界的に水銀の利用が削減されることになりますが、それはつまり水銀に対する需要が減少していく=水銀価格が下がることを意味します。水銀利用の減少は、金属水銀を輸出してきた日本国内の水銀廃棄物の処理・リサイクルにも影響します。

鉄や非鉄のリサイクルをしている方はイメージしやすいと思いますが、回収・リサイクルされた製品の価格が下がると、売却できていたものが、処理費を払わなければならなくなったり、リサイクル費用が高騰するために、埋立に回ったりすることがあります。水銀についても、水銀価格が下がることで、同様の状況になる可能性があります。

このように、水銀処理の業界構造が転換することにより、これまで安定的に回収されていたルートに代わって、他の処理ルートに流れることになりますが、そのルートが水銀の管理を適正にできるかどうかは未知数です。

つまり、水銀廃棄物の運搬、処理・リサイクル方法を今後どのように規制するかが課題となりますが、これは①と重複する課題です。水俣条約がライフサイクル全体に関係するということは、水銀の採掘から利用、廃棄までの流れがお互いに影響を与えながら同時並行的に変化していくということでもあります。

上記のように、水銀の取り扱いについては廃棄物だけの問題ではありませんので、環境問題として、またCSRのテーマとして今後しばらくの間は注目していくべきでしょう。

水俣条約への対応については、パブリックコメントが募集されています。

コメントを出さない方にとっても、今後の改正の方向性が分かりますので、ぜひご一読ください。

※募集期間:平成26年11月14日(金)から平成26年12月14日(日)

※募集期間:平成26年11月20日(木)から平成26年12月19日(金)

※募集期間:平成26年11月25日(火)から平成26年12月24日(水)

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執筆者プロフィール(執筆時点)
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堀口 昌澄 (ほりぐち まさずみ)
アミタ株式会社 環境戦略支援グループ
東日本チーム 主席コンサルタント(行政書士)

産業廃棄物のリサイクル提案営業等を経て、現在は廃棄物リスク診断・廃棄物マネジメントシステム構築支援、廃棄物関連のコンサルタント、研修講師として活躍中。セミナーは年間70回以上実施し、参加者は延べ2万人を超える。環境新聞・日経エコロジーその他記事を多数執筆。個人ブログ・メルマガ「議論de廃棄物」も好評を博している。日本能率協会登録講師。

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