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企業と水リスク|「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」からわかる、日本企業の取り組み状況を教えてください。

Image by Dean Moriarty from Pixabay

生産コストの上昇のみならず、操業停止や企業のブランドイメージの毀損にもつながりかねない「水リスク」。企業の水リスク対策は今、どのような状況にあるのでしょうか。2020年3月に発表された、「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」を踏まえ、企業の最新動向を解説します。

目次

※CDPの詳細については、こちらの記事も参照ください。

CDP水セキュリティとは?(旧名:CDPウォーター)

CDP水セキュリティとは、英国に本部を置く国際的非営利団体CDPによる、企業の水リスクに関する世界的な情報公開プログラムです。多くの機関投資家が情報開示に関心をいだき、本プログラムに署名を行っています。2019年時点で、CDP水セキュリティプログラムに署名している機関投資家の運用資産総額は96兆ドル(2020年9月現在のレートで、約100兆円)となっており、2018年の87兆ドルからも増加しています。なぜこれほど投資家の関心が高まっているのでしょうか。それは、水リスクがビジネスにおいて、事業の操業停止につながりかねない重大なリスクとして認識されているからです。世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2020」でも発生の可能性が高いリスクの8位、影響が大きいリスクの5位に挙げられています。

発生の可能性が高いリスク上位10位 カテゴリ
1. 異常気象 環境
2. 気候変動対策の失敗 環境
3. 自然災害 環境
4. 生物多様性の損失 環境
5. 人為的な環境災害 環境
6. データの不正利用または窃盗 テクノロジー
7. サイバー攻撃 テクノロジー
8. 水危機 社会
9. 国家統治の失敗 地政学
10. 資産バブル 経済
影響が大きいリスク上位10位 カテゴリ
1. 気候変動対策の失敗 環境
2. 大量破壊兵器 地政学
3. 生物多様性の喪失 環境
4. 異常気象 環境
5. 水危機 社会
6. 重要情報インフラの故障 テクノロジー
7. 自然災害 環境
8. サイバー攻撃 テクノロジー
9. 人為的な環境災害 環境
10. 感染症 社会

出典:「Grobal Risks Report 2020」より、アミタ(株)作成

※CDP水セキュリティの2019年の調査において、日本企業では、320社に対してプロジェクトに基づく質問書が送付され、194社(61%)の企業が回答。(2018年の回答率は60%、186社)2019年は、回答書が送付された320社以外にも、11社からの自主的な回答があります。

「CDP水セキュリティレポート2019」 からわかる、日本企業の水リスクへの意識

水資源の豊富な日本においても、2019年の調査で水リスク評価をおこなった企業のうち、71%の企業が水リスクを認識していると回答しています。内訳としては下記が挙げられます。

014547-03.png

出典:「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」より

なお、企業の水リスクについては、世界自然保護基金が、2011年の報告書の中で3つのリスクを提示しています。

▼水リスクの3つのリスク

カテゴリ 詳細
1. 物理的なリスク 水不足や洪水、水質汚濁など、操業に必要である良質な水が得られなくなるリスク
2. 規制によるリスク 政府による水の使用制限や環境税などの賦課による規制リスク
3. 評判に関するリスク 水利用に対する地域住民との対立や批判によるリスク、ブランドのイメージダウンによるリスク

出典:WWF「Assessing Water Risk: A Practical Approach for Financial Institutions」

今回のCDPの回答結果では、物理的なリスクが多く見受けられますが、海外では飲料メーカー等の取水をめぐって地域住民からの批判が巻き起こり、事業撤退せざるを得ないケースが発生するなど、評判に関するリスクも見過ごせないものとなっています。

企業の目標策定状況と企業取り組み事例

実際に、日本企業はどのような目標を立て、水リスク対策に取り組んでいるのでしょうか。2019年の調査では、「74%の企業が定量的目標と定性的な目標の両方を設定している」と回答する結果となりました。過去、2015年の「CDPジャパン150ウォーターレポート2015年」では、両方の目標に取り組んでいる企業の割合は31%という結果であり、水リスクに積極的に取り組む企業が増加していると考えられます。

取り組み企業数が多かった目標は、下記の通りです。

▼定量的な目標

目標 取り組み
企業数
取水量の削減 56社
水消費量の削減 41社
水使用効率の改善 27社
排水の汚濁負荷の削減 23社

▼定性的な目標

目標 取り組み
企業数
水域・生息地の修復や生態系の保全 26社
法規制値以上の排水の質の改善 16社
地域社会における水の供給と十分な衛生へのアクセスの向上 10社

出典:「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」より、アミタ(株)作成

また、取り組み事例としては下記が挙げられます。自社内の水資源の利用に関する取り組みの他、バリューチェーンにおける工夫を進めている企業が見られます。

▼CDP水セキュリティレポート掲載事例の一部抜粋

企業名 取り組み内容
花王株式会社 消費者の製品使用時の水利用量の低減
洗浄力が高く、すすぎが1回で済む衣料用液体濃縮洗剤の開発や、泡立ちと泡切れの両方に優れた食器用洗剤の開発を実施。食器用洗剤では、生活者が製品を使用する際の水の使用量を20%削減。
不二製油グループ バリューチェーンにおける水質汚濁防止
マレーシアの小規模パーム農家に対し、NGOと共同で教育支援を実施。農家の生産性向上と、化学肥料による土壌や河川の汚染を防止。水質汚濁に関する状況の評価を行った上でサプライヤーと契約を締結している。
ニチレイグループ バリューチェーンにおける操業停止リスク低減
海外では深刻な水リスクにより、操業停止のリスクも考えられる。ニチレイはブラジルのアセロラ栽培の契約農家に対し、灌漑方法を含む適切な農業指導を実践。水使用量の削減だけでなく、同時に収益の増加を実現している。
住友金属鉱山株式会社 水効率の改善や水の再生利用
ニッケル中間物を生産するフィリピンのプラントにおいて、水リサイクル設備を稼働させ、製造工程で必要な水を確保している。

出典:「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」より、アミタ(株)作成

Aリスト選定された日本の企業は23社!2019年度の日本企業の評価について

なお、2019年の調査では、日本企業から23社が最も評価が高いAリストに選定されています。全世界でAリストに選定された企業は72社であり、日本のAリスト選定数は世界一という結果となっています。

▼水セキュリティAリスト(2019年 日本企業23社)

セクター 企業名
バイオ技術・ヘルスケア・製薬セクター 塩野義製薬
食品・飲料・農業関連セクター アサヒグループホールディングス、キッコーマン、キリンホールディングス、サントリー食品インターナショナル、日本たばこ産業
インフラ関連セクター 東京ガス
製造セクター クボタ、ソニー、トヨタ自動車、トヨタ紡織、日産自動車、日立製作所、三菱電機、横河電機
素材セクター AGC、LIXILグループ、花王、東レ、日産化学
小売セクター 住友商事
サービスセクター 日本電気、富士通

出典:「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」より、アミタ(株)作成

レポートにおいて、日本企業の評価が高い理由に関する言及はありませんが、日本企業のCDPの調査におけるパフォーマンスは上昇傾向にあります。過去のデータと2019年を比較すると下記の通りとなります。

▼CDP水セキュリティレポート 日本企業の2017年度~2019年度調査結果の比較

項目 2017年度
調査結果
2018年度
調査結果
2019年度
調査結果
各レポートにおける分析対象企業数※ 180社 191社 201社
定量的な目標と定性的な目標の両方を設定している企業の割合 49% 68% 74%
水リスクを評価している企業の割合 - 84% 91%
バリューチェーンとのエンゲージメントを行っている企業の割合 - 71% 76%
水に関する課題について取締役会レベルで監督を行っている企業の割合 83% 81% 87%

※各レポートの分析は期日までに回答した企業のデータを対象としており、全体の回答数と異なります。
出典:各年度のCDP水セキュリティレポートより、アミタ(株)作成

日本企業の水リスクにおける課題は?

一方で、いくつかの課題と改善点が示されています。

課題1. 水リスク評価において、生態系および動植物生息環境の状態に対する影響の評価を行う企業と、ステークホルダーとの対立について考慮する企業が少ない。
課題2. 水リスク評価において、サプライチェーンやバリューチェーンでの評価が少ない。

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出典:「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」

サプライチェーン上の取り組みを進める企業も、生態系への配慮を行う企業もありますが全体としては少ないという評価となっています。企業によって取り組みのレベルにばらつきがあると考えられます。

課題.3 8%の企業が水ストレスの高い事業所の取水量という観点でのモニタリングをしていない。

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出典:「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」

取水量を全くモニタリングしていない企業はありませんが、8%の企業は「水ストレス※の高い事業所の取水量」という観点での定期的なモニタリングをまったく行っておらず、網羅的にモニタリングできている企業は53%にとどまる結果となっています。

※CDPにおいて、「水ストレス」とは、「淡水に対する人間的および生態学的な需要を満たす能力またはその欠如」と定義されています。一般的には、水需給に関する逼迫の程度を評価する指標を「水ストレス指標」と言い、「人口一人当たりの最大利用可能水資源量」と「年利用量/河川水等の潜在的年利用可能量」がよく用いられます。

課題4. 水関連の目標について、水の「使用」に関して定量的な目標を設定する企業は増えているが、事業所が立地する地域の特性を考慮せずに目標設定を行う企業が多いとされる。

今後は、事業所が立地する流域の水の希少性を評価し、それらを反映させた目標設定を検討することが必要になるとされています。

(参考情報)流域の状態を考慮した水関連目標設定のためのガイド
Setting Site Water Targets Informed By Catchment Context: A Guide For Companies

2019年8月、国連グローバルコンパクトCEO Water Mandate、Pacific Institute、WRI、WWFなどから構成されるプロジェクトチームにより作成、ガイドが公表されています。

課題5. 気候シナリオ分析と内部ウォータープライシングに関する設問が新設されたが、本格的な気候シナリオ分析や内部ウォータープライシングを実施している企業は限定的である。

投資家は企業の水リスクに対する財務への影響を求めているため、気候変動への取り組みと同じく、気候シナリオに基づいた水に関するリスクと機会の特定、また水使用等の貨幣価値への換算、両者を事業戦略に落とし込むことが必要とされています。

さいごに

014547-006.png水リスクを感じる企業が多い一方で、水に関連するビジネスチャンスを見出していると回答した企業も増加しており、74%となっています。具体的には右記が挙げられます。
水に限らず、環境問題や社会課題は、事業活動に対するリスクばかりではなく、同時にチャンスももたらします。リスクをきちんと是正しながら、本業の中で環境問題や社会課題の解決に貢献する企業を目指すサステナブルな経営が、今求められていると言えるでしょう。

出典:「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」

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執筆者プロフィール

pro_ishida.png石田 みずき(いしだ みずき)
アミタ株式会社
サステナビリティ・デザイングループ マーケティングチーム

滋賀県立大学環境科学部を卒業後、アミタに入社。メールマガジンの発信、ウェブサイトの運営など、お役立ち情報の発信を担当。おしえて!アミタさんへの情熱は人一倍熱い。

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