インタビュー
今こそ持続可能な「農と食」を実現するとき 〜「循環大国・日本」に向けた暮らしのRe・デザイン〜
「令和の米騒動」と呼ばれるお米の供給不安や米価の高騰は、私たちの暮らしを直撃し、日本の農業のあり方を改めて問い直す契機となっています。今回は、長年にわたり農業政策の改革や地域発展に尽力されてきた東京農業大学総合研究所 特命教授・末松広行氏をお迎えし、持続可能な「農」と「食」の実現に必要な視点について意見を交わしました。
(対談日:2025年6月9日)
連続対談企画「道心の中に衣食あり」では、アミタ熊野が対話を通じて持続可能な社会の未来図や、その設計に必要な思考や哲学をお伝えしています。
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歴史と科学による再評価で、お米の可能性はもっと広がる
熊野:末松さんは農林水産省の事務次官を務められ、農業政策という自然観・時代観・国家観といったあらゆる世界観につながるような職場にいらっしゃったと思います。国際社会が新たな時代に突入して、日本も変わってきている状況をご覧になり、現在のご研究も踏まえて、今どのようなことを考えていらっしゃるか、ざっくばらんにお話しいただけますか。
末松氏:ありがとうございます。私は農林水産省を退職してから、東京農業大学の総合研究所で様々な研究に取り組んでいます。その柱の1つが、お米の機能の見直しです。
これまでお米は、お腹いっぱい美味しく食べることを目的に、粒を大きくして、雑味がないものを志向した研究が進められてきました。実際、昔に比べてお米はすごく美味しくなっています。一方で、本来お米に含まれる多様な栄養素については十分に考えることがなされずに、栄養が失われたり、減ってきた面があります。
またお米には、元々いろいろな種類があって、鉄分を多く含むお米も見つかっています。現在、女性の約1割は鉄欠乏性貧血に悩んでいると言われますが、そうした特徴のあるお米を食べることで貧血を防げるようになるかもしれません。これからは美味しさと多様な栄養を両立させて、「お米を美味しく食べると、健康にもプラスになりますよ」と言えるようになるといいなと考えています。
末松氏:歴史を振り返ると、例えば、江戸時代中期から後期にかけて「江戸わずらい」という病が流行りました。いわゆる「脚気(かっけ)」、ビタミンB1の欠乏症ですね。当時は参勤交代で江戸に来た人たちがかかる体調不良の病とされ、故郷の藩に戻ると治ったそうです。主な原因として、玄米から白米中心の食生活に変化した際に、精米過程で胚芽を取り除いてしまったことによるビタミンB1の不足が考えられていますね。
他の食べ物で不足した栄養を補って、お米からはデンプンだけ摂れたらいいという考え方もありますが、せっかく日本はお米を主食としているので、私はお米自体の豊富な栄養機能を活かせたらいいのではないかと考えています。例えば、大阪府泉大津市では、市内の小・中学校の給食において、すべてのお米に「亜糊粉層(あこふんそう)」を残した金芽米を使用しています。亜糊粉層は、玄米の胚乳表面にある薄い層で、ビタミンB1や食物繊維、ミネラルなどの栄養素が豊富に含まれています。あと給食の野菜を無農薬にしたり子どもたちに草履を履かせて走り回らせたりね、いろいろ工夫されています。また、「泉大津市マタニティ応援プロジェクト」として、市内の妊婦とその家族に毎月最大10 kgの加工玄米を無償提供したりしています。こうした様々な取り組みのおかげで少しずつ健康状態が改善しているという効果が出てきているので、研究を積み重ねてさらに解明していきたいと思っています。余談ですけど、研究って結構面倒な部分があるんですよ(笑)。いいと思うことをいっぱい積み重ねて、効果が出てるんだからそれでいいじゃないかっていうことと、何がどういう理由でどういう効果があったかを解明することは、ちょっとずれることがあると思っています。
熊野:分かります(笑)。そして、うん、興味深いですね。江戸時代の「江戸わずらい」から、現代の貧血や生活習慣病まで、食の選択が人々の健康や社会のあり方に影響を与えていると考えると、農業政策の重要性は計り知れませんね。
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対談者プロフィール
末松 広行(すえまつ ひろゆき)氏
東京農業大学総合研究所 特命教授
熊野 英介(くまの えいすけ)
アミタホールディングス株式会社
代表取締役会長 兼 CVO
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