2026年のサステナビリティ対応は「何を掲げるか」ではなく「どう実行するか」が問われる段階に入っています。規制・データ・開示が連動することで、企業の意思決定の前提そのものが再設計されつつある点が本質です。本記事では2026〜2027年の主要トレンドを整理し、企業間で差が生まれている構造と、その中で開示が果たす役割について解説します。

2026–2027年のサステナビリティの主要トレンドとそのポイント

2026-2027年の主要トレンドは以下の通りです。

主要トレンド2026-2027年の状況
SSBJ基準実質的な開示義務の開始年。Scope3の1次データ化推奨
排出量取引制度損益計算書への影響が本格化
CSRD・CSDDD実装段階へ。簡素化されたが実効性を問われる制度が本格運用
CBAM支払いや報告が実務レベルで必須。
製品CFPの普及
EU CE規則/CE法ESPRやPPWRなどが先行運用。
26年秋CE法案提示予定

参考:SSBJ基準の概要(金融庁)

参考:炭素国境調整措置(METI/経済産業省)

参考:EUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)の概要

参考:成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)|資源エネルギー庁

SSBJ基準

日本のプライム上場企業にとって、SSBJ基準への対応は急務です。国際基準(ISSB基準)と整合性を保ちつつ日本の商慣習にも配慮した情報開示のルールであり、2026年はこの基準に基づく報告が実質的にスタートする節目の年となります。


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排出量取引制度

温室効果ガスの排出が直接的な「コスト」として損益計算書に反映されるようになります。いかに低コストで排出量を削減できるかが製造原価の抑制に直結し、企業の価格競争力を決定づけます。

CSRD/CSDDD

簡素化されたとはいえ、第三者保証や詳細な開示基準、サプライチェーン全体への責任拡張など、形だけの開示では対応できない制度が本格運用になります。CSRD対象企業をクライアントに持つ企業にも対応要請が強まる可能性があります。


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CBAM

欧州への輸出を行う企業にとって、CBAM(炭素国境調整措置)は極めて高い参入障壁となり得ます。排出量の多い地域や業者からの調達を続ければ、欧州市場での競争力を失いかねません。


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EU CE関連規則、CE法

欧州では「サーキュラーエコノミー」への規制も強化されています。単なるリサイクル推奨ではなく、製品の設計段階から長寿命化や再資源化を義務づけるもので、2026年秋頃には循環経済法案の提出が予定されており、各種先行規則の動向とともに注目されます。
こうした動きを踏まえると、2026-2027年の変化のポイントは大きく3つに整理できます。


  • 規制は「設計」から「運用」へ移行。対応は「前提条件」へ
  • サプライチェーンは「把握」から「可視化競争」へ
  • 開示は「報告」から「意思決定基盤」へ


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規制は「設計」から「運用」へ移行。対応は「前提条件」へ

2026年以降の特徴は、制度が「導入」から「運用」に移る点にあります。CBAMは報告段階から実質的なコスト負担へと移行し、CSDDDやEUDR(森林破壊規制)も実務対応が求められます。

規制の波は、グローバルなビジネスの「パスポート」としての性格を強めています。これらを「コスト」と捉えるか「品質の証」と捉えるかで、数年後の市場シェアは大きく分かれるでしょう。重要なのは制度の理解ではなく、どのデータを、どの頻度で、どの粒度で管理するかという運用設計です。

サプライチェーンは「把握」から「可視化競争」へ

排出量やリスクの管理は、自社単体からサプライチェーン全体へと広がっています。特にScope3は企業の実行力を測る指標として位置づけられ、SSBJにおいても可能な限り1次データの使用が求められています。

業界平均値による推計とサプライヤーからの実測データでは、意思決定の解像度に大きな差が生まれます。2次データだけに頼っていては自社の削減努力が数値に反映されず、投資家に正しく伝わりません。さらに、企業単位ではなく製品単位(CFP)で把握できているかも重要な分岐点です。

開示は「報告」から「意思決定基盤」へ

3つ目の変化が最も本質的です。開示は従来、外部への説明責任を果たすためのアウトプットと捉えられてきましたが、現在は社内の意思決定を動かすための基盤として機能し始めています。

重要なのは「何を開示するか」ではなく、どのような意思決定のためにどのデータを測定・管理しているかです。製品別・工程別に分解されたデータが整備されていれば、どの製品に削減投資を集中すべきか、どのサプライヤーを優先的に見直すべきか、どの施策がコスト効率に優れているかを具体的に判断できます。

「移行計画」も、投資配分や実行順序を社内で合意するためのツールとしての性格を強めています。開示項目に合わせて後追いでデータを整備するのではなく、先に意思決定に必要な粒度でデータを設計している企業ほど、施策の実行スピードが速い傾向があります。開示は「評価されるためのもの」から「戦略を前に進めるための実務インフラ」へと変わりつつあります。

サプライチェーンの排出量開示をどう進めるか?

多くの企業にとって実務面で最も対応が求められるのが、サプライチェーン排出量開示でしょう。特にScope3の正確な把握は企業の実行力を測る指標として重視されており、業界平均データを使った「推計」では投資家から高い評価を得ることが難しくなります。


管理ステップ従来の手法2026年の目指すべき姿
Scope3の1次データ収集業界平均値(2次データ)で推計取引先からの実測値(1次データ)を直接取得
取引先への排出データ開示求められたら年1回の報告自社から即時開示できる体制を常備
製品単位のCFP算定企業単位でまとめて開示製品ごとの排出量を算定し、差別化の武器に

Scope3の1次データを収集する

解像度の高いScope3削減策を検討するためには、推計値ではなく実測値、すなわち「1次データ」の収集が不可欠です。主要なサプライヤーとパートナーシップを組み、排出データを直接共有し合える信頼関係を構築しましょう。

対応可能なレベルは各社ごとに異なります。支出データ、活動量データ、排出量データ(自主算定)など、サプライヤーごとの対応レベルを丁寧にコミュニケーションし、段階的な導入を意識することが大切です。最も重要なのは、各社の回答がバラバラにならないよう、GHGプロトコル等に準拠したテンプレートやガイドラインを配布することです。表彰や優先取引、共同プロジェクト化など、協力へのメリットを用意できると収集が進みやすくなります。

取引先が求めるデータ開示を行う

同時に、自社もまた開示を求められる点に留意が必要です。大手企業を中心に、取引先選定の基準として排出データの提示を求める動きが加速しており、品質や価格だけではサプライチェーンの中に留まることが難しくなっていきます。細かいところまで厳密にデータ整備するより、1次データを根拠にインパクトの大きい領域を特定し、具体的な削減策を優先順位をつけて用意できている状態を目指しましょう。

製品単位のCFP算定で差別化する

企業単位の開示にとどまらない「製品単位(CFP)」での排出量算定が求められています。ユーザーは、どの製品を選べばどれだけ環境負荷を減らせるのかを具体的な数字で比較したいと考えています。CFPを正確に算出し製品の価値として訴求できれば、価格以外の部分で選ばれる理由を作れます。CFP算定の標準化は、環境意識の高い市場における優位性の武器となるでしょう。


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削減貢献量の可視化に取り組む

2026年2月、IEC(国際電気標準会議)において、削減貢献量の算定・開示に関する国際規格「IEC 63372」が正式発行されました。省エネ等に強みを持つ日本企業にとっては待望の規格化ですが、もともとグリーンウォッシュ懸念の強い領域です。Scope1-3とは異なる算定やコミュニケーションが必要なため、違いや注意点を理解し、自社の製品・サービスの評価を高めるツールとして活用できるよう準備を進めましょう。

関連記事: 削減貢献量とは?Scope1,2,3だけでは量れないCO2削減貢献量についてWBCSD算定ガイドライン・事例踏まえて解説

2026年に目指すべき新たな価値創造とは何か?

次に「攻め」の視点です。2026年のサステナビリティは「負の遺産を減らす」段階から「新たな価値を創出する」能動的な段階へとシフトします。環境を破壊しない、人権を侵害しないというだけでは競争力の源泉にはなりません。企業の存在意義そのものが、いかに社会を豊かにし地球環境を再生させるかで問われています。


価値創造の視点従来の考え方2026年の新しい価値
目標の方向性マイナスの最小化(負の解消)プラスの最大化(正の創出)
人的資本管理と効率の追求幸福感(ウェルビーイング)の向上
自然資本資源の消費抑制自然の再生(リジェネラティブ)

負の解消から正の創出へ転換する

これまでのサステナビリティは環境汚染や不当な労働を「なくす」ことに注力してきました。2026年は、事業を行うこと自体が環境を改善し社会をより良くする「正の創出」へと舵を切るべき年です。自社の製品が使われれば使われるほど社会課題の解決に向かうような循環型ビジネスを目指しましょう。この攻めの姿勢が、新しい成長機会を創出する原動力となります。


関連記事: ビジネスを循環型に再設計する原理とは?(前編)

従業員の幸福を企業価値とする

人的資本経営の本質は、従業員の「ウェルビーイング(幸福感)」を企業の持続的な成長エンジンに変えることにあります。単なる福利厚生の充実ではなく、一人ひとりが仕事に意味を感じ、心身ともに健康で創造性を発揮できる環境であるかが競争力を左右します。多様な人材が才能を発揮できる組織文化は、イノベーションの源泉となり、長期的なブランド価値を高めます。

関連記事: 人も社会も豊かにする循環型デザインのあり方とは?(前編)

環境を再生するリジェネラティブ経営を行う

さらに先を見据えた概念が「リジェネラティブ(再生)」です。自然環境を単に維持するのではなく、事業活動を通じて積極的に自然を豊かにし再生させていく経営のあり方で、土壌を改良する農業や、生物多様性を回復させる開発などが代表例です。自然資本を使い潰すのではなく豊かに育む視点は、資源枯渇リスクを回避し、力強い経営基盤を構築する戦略となります。

トレンドを次期経営戦略にどう組み込むか?

最も重要なのはトレンドを「知っている」で終わらせないことです。経営につなげるためには、①重要課題(マテリアリティ)の再特定、②非財務/財務情報の連携が鍵となります。

重要課題を最新動向で再特定する

まず取り組むべきは、自社の重要課題の見直しです。数年前に策定したマテリアリティは、すでに現状と乖離している可能性があります。2026年の規制動向やステークホルダーの期待を反映し、自社が最も注力すべき課題を再特定してください。どの課題の解決が持続的な利益成長に最も貢献するのかをデータに基づいて再評価することで、限られたリソースを効果的な施策に集中できます。

非財務と財務の情報を連携させる

次に重要なのが、サステナビリティ活動の成果を財務的な価値として翻訳し、統合的に開示する体制の構築です。非財務データが将来のキャッシュフローやリスク低減にどう寄与するのかを論理的に説明することで、投資家からの正当な評価を引き出せます。サステナビリティが利益につながる構造の解像度を、損益レベルから資本レベルへと拡張し、サステナビリティレポートとアニュアルレポートを一つの物語として統合することが、企業の透明性を高める最良の方法です。

関連記事: サステナビリティの投資対効果が説明できない本当の理由~企業の資本と社会インパクトを可視化するMEGURU Capital Model~

まとめ

2026年はSSBJ基準の本格運用、CBAMの実務負担化、CSRD/CSDDDの運用開始など、規制が「設計」から「運用」へ移行する節目の年です。企業に求められるのは制度の理解にとどまらず、意思決定に直結するデータ粒度と運用設計を整えることです。Scope3の1次データ収集や製品単位のCFP算定、削減貢献量の可視化を通じて、サプライチェーン全体での「可視化競争」に耐えうる体制を構築しましょう。

同時に「負の解消」から「正の創出」へと価値創造の軸を転換し、ウェルビーイングやリジェネラティブといった視点を経営に取り込むことが、長期的な競争力の源泉となります。マテリアリティの再特定と、非財務/財務情報の統合によって、サステナビリティを「戦略を前に進めるための実務インフラ」として機能させることが、2026年以降の企業価値を左右する鍵となるでしょう。

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執筆者情報

  • おしあみへんしゅうぶ

    おしアミ編集部

    アミタ株式会社

    おしえて!アミタさんの編集・運営担当チーム。最新の法改正ニュース、時事解説、用語解説などを執筆・編集している。

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