環境管理を“企業価値”へ -インドネシアPROPER環境認証制度-|元環境相高官・ヌルル博士インタビュー

2025年8月、インドネシアにおける企業の環境管理の遵守向上と透明性の確保を目的とした政策プログラム「PROPER」の専門家であるボゴール農科大学(IPB University)のヌルル・ジャンナ博士に、アミタホールディングス海外事業統括グループの安田がお話を伺いました。

インドネシア環境省の元高官として制度設計にも携わってきたヌルル博士。PROPERが生まれた背景や評価の広がり、企業の現場で起きている変化、そして海外企業への期待について、幅広くお話しいただきました。

PROPERの目的と評価の広がり

安田(アミタ)

本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、インドネシア環境省が推進する「PROPER」の目的について改めてお伺いできますか。

ヌルル博士(ボゴール農科大学)

PROPERはもともと、1990年代初頭に水質汚染対策として導入されましたが、その後発展を遂げ、現在では以下のような項目を包括的に評価する環境パフォーマンス評価制度になっています。

  • 大気排出
  • 有害廃棄物(B3)管理
  • エネルギー効率
  • 生物多様性保全
  • CSR
  • サーキュラーエコノミーの取り組み など


また、企業に対して以下のような実践を促進しています。


  • 廃棄物削減
  • 資源回収
  • 共同処理を持続的な解決策として導入
  • 廃棄物トレーサビリティ
  • 情報公開による透明化
  • 廃棄物排出企業と処理事業者の連携強化


PROPER導入以前のインドネシアでは、主に以下の手法が用いられていましたPROPER導入以前のインドネシアでは、主に以下の手法が用いられていました。

環境影響評価(AMDAL)の義務付け
・汚染物質・排出量の法的基準の設定
・企業との自主的な排出削減合意など

これらは企業の法令遵守を主目的としており、一般市民との関わりは限定的でした。
PROPERの導入により、インドネシアで初めて企業の環境パフォーマンスを公表する評価制度が確立されました。

行政の現場からアカデミアへ ヌルル博士がPROPERを研究し続ける理由

安田

PROPERは単なる環境規制ではなく、環境・社会面を含めた企業の持続可能な取り組みを総合的に評価・促進する制度なのですね。大変よく理解できました。教授が環境省を辞された後もPROPERについて研究を続けておられるのは何故ですか?

ヌルル博士

インドネシア環境省に在籍していた当時、多くの企業が環境問題や法令遵守を「負担」として捉えている現状を目の当たりにしました。しかし、環境管理は単なる法令遵守にとどまるべきではありません。

PROPERは、法令遵守・情報公開・レピュテーション(評判)インセンティブを組み合わせることで、環境管理を“負担”から“企業価値”へと転換する革新的な仕組みです。企業に対して「環境責任は、負担ではなく、卓越したビジネスの証であり誇りである」と捉える意識改革をもたらす制度として注目しています。

PROPERのこれまでの成果

安田

PROPERは開始当時と比べて、どのような成果が出ているのでしょうか?


ヌルル博士

PROPER導入以降、以下のような成果が見られています。

  • 1995年の約187の工業施設を対象とした試験導入から、2025年には5,476社が参加するまで拡大し、「法令遵守を超える」取り組みを行う企業も増加
  • 自主的な環境イノベーションの促進
  • 企業評価結果の公開による透明性の向上、およびデジタル報告システムの整備
  • 汚染負荷、エネルギー消費、水使用量、有害廃棄物発生量の削減
  • 企業の環境責任モデルとして国際的評価を獲得

現在の課題と対応策

安田

PROPERが企業の環境意識向上や環境負荷の削減に大きく貢献してきたことがよく分かりました。一方で、制度のさらなる発展に向けては、どのような課題があるのでしょうか。また、その課題に対してどのような対応が進められているのか教えてください。

ヌルル博士

PROPERが直面している主な課題と、その対策として以下の4点が挙げられます。

主な課題対応策
中小企業のリソース不足能力開発プログラムの強化
データ量増加への対応AI・ビッグデータを活用したデジタル基盤の高度化
地域間の評価のばらつき産業団体・学術機関との連携強化
企業の抵抗感成功事例の共有による意識改革


PROPERの最新動向

2025年の正式な結果は未発表ですが、2024年時点では、
・約60%の企業が「ブルー(法令遵守)」評価を取得
・約3分の1の企業が依然として未遵守
 
また、PROPERは以下のような効果も生み出しています。
・NGO、地域コミュニティ、環境当局、メディアを含む統合的ガバナンスの形成
・評価制度自体の透明性・信頼性向上(制度の改善圧力)
 
制度の進化(2025年規則
近年の制度改正では、
・気候目標、SDGs、ESGとの連携強化
・各評価ランクに応じたインセンティブ・罰則の明確化
・グリーン・ゴールド取得の要件厳格化
などが盛り込まれています。



安田

PROPERが評価する項目は多岐にわたりますが、なかでも有害廃棄物(B3)の管理は、環境・健康リスクに直結するため特に注目されている分野だと思います。改めて、有害廃棄物(B3)管理に対してPROPERはどのような影響をもたらしているのか、詳しく伺えますか。

B3廃棄物管理に対するPROPERの影響

ヌルル博士

インドネシアでは、有害廃棄物(B3)の不適切保管や不法投棄などの課題が残っています。ROPERは削減・再利用・トレーサビリティを促進することで、環境および健康リスクの低減に貢献しています。


安田

それでは、B3廃棄物を排出する企業や、処理・再資源化を担うセメント業界には、今後どのような取り組みが求められるのでしょうか。


ヌルル博士

B3廃棄物を排出する企業は、投入資源の効率化や生産プロセスの最適化を通じて、発生源での廃棄物削減に取り組むべきです。特に、資源回収やサーキュラーエコノミーのモデルを活用することで、多くのメリットを得ることができます。また、有害廃棄物の管理プロセスにおいては、トレーサビリティと透明性の確保も重要です。

処理・再資源化を担う業界について、一例としてセメント業界においては、代替原料や代替燃料の活用を積極的に検討し、副産物や廃棄物を効率的に生産プロセスへ再投入することが求められます。さらに、コ・プロセッシング設備の拡充や、B3廃棄物排出事業者との連携強化により、産業エコシステムの強化と埋立処分量の削減が期待されます。

B3廃棄物は、単なる負担や埋立対象としてではなく、活用可能な資源として捉えるべきです。適切な管理とイノベーションにより、B3廃棄物を再び産業プロセスに取り込むことで、廃棄物発生量の削減と生産効率の向上を同時に実現することが可能となります。


安田

B3廃棄物を「資源」として捉える視点が、企業の取り組みを大きく前進させているのですね。実際にPROPERへ登録している企業のなかには、こうした考え方を体現した優良事例も多いと伺っています。具体的にどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。

企業による優良事例

ヌルル博士

さまざまな優良事例が存在します。特に以下の6つの分野においては、有効な取り組みが進んでいます。(優良事例:アミタにより追記)


  1. Waste-to-Energy(廃棄物からのエネルギー化)
     有機廃棄物や一部の有害廃棄物(B3)を代替燃料へと転換し、エネルギーとして再利用する取り組みです。廃棄物量の削減と化石燃料の使用抑制を同時に実現することが可能です。
    Solusi Bangun Indonesia (SBI)  
      ・PROPER評価:グリーン〜ゴールド
    PT Semen Padang
      ・PROPER評価:グリーン

  2. Zero Waste to Landfill(埋立ゼロ)
    廃棄物監査、分別管理、リサイクル施策を総合的に実施することで、廃棄物が埋立処分されるのを防ぎ、資源として循環させる取り組みです。
    PT Suparma Tbk
      ・PROPER評価:ブルー
    Bank BRI
      ・PROPER対象外
    PT Trita Investama (Danone-Aqua)
      ・PROPER評価:グリーン〜ゴールド

  3. Collaborative Co-processing(コ・プロセッシング)
    有害廃棄物(B3)を排出する企業とセメント工場などが連携し、廃棄物を原料や燃料として再利用する仕組みです。産業間連携を通じて廃棄物の有効活用と環境負荷の低減を図ります。
    Semen Indonesia Group (SIG) – Nathabumi
      ・PROPER評価:グリーン〜ゴールド

  4. Digital Waste Traceability(デジタル廃棄物管理)
    廃棄物の発生から処理までの流れをデジタルシステムで可視化し、リアルタイムでのモニタリングと管理を行う仕組みです。透明性と説明責任の向上に寄与します。
    システム例
      ・AKSI (Aplikasi Data Sampah Indonesia)
      ・REKOSISTEM / RECO system
      ・SMART Waste Indonesia (WRI)
    ・企業例
      ・PT PLN (Persero)
        ・PROPER評価:グリーン
      ・PT Pupuk Kalimantan Timur
        ・PROPER評価:ゴールド

  5. Eco-friendly Product Redesign(環境配慮型製品設計)
    製品設計の段階で有害物質の使用を最小限に抑え、環境負荷を低減する取り組みです。リサイクル性や資源効率の向上もあわせて実現します。
    環境に配慮した製品の再設計の例
      ・PT Tekpak Indonesia – “Tekrap Loop”
      ・Alner (reuse packaging system)
      ・Solinatra – biodegradable materials
    ・環境に配慮した製品を製造している企業の例
      ・PT Unilever Indonesia  
        ・PROPER評価:ブルー
      ・PT Kalbe Farma
        ・PROPER評価:グリーン

  6. ISO認証の導入(ISO × PROPERの統合)
    ISO規格(ISO 14001など)とPROPERの評価基準を統合し、体系的な環境管理体制の構築を進める取り組みです。内部管理の強化と継続的改善を促進します。
    ・インドネシアで一般的に利用されているISO規格の例
      ・ISO 14001(環境)
      ・ISO 9001(品質)
      ・ISO 45001(労働安全)
    ・ISOとPROPERを統合した企業の例
      ・PT Pertamina  
        ・PROPER評価:グリーン〜ゴールド
      ・PT Solusi Bangun Indonesia
        ・PROPER評価:グリーン


PROPERのランク別色分け制度に関する情報はこちらをご覧ください。


ISOとPROPERの関係

ISO認証とPROPER評価の関係については、さまざまな見方があります。ISOの導入が評価向上に役立つ場合もあれば、ケースによるとする指摘もあります。

例えばFalakh(2026)は、ISO 14001認証とPROPER評価の改善が見られた企業においても、排出量やエネルギー使用量などの指標には一定の変動があったことを報告しています。

一般的に、ISOはモニタリングや報告などの内部体制づくりを支える枠組みであり、PROPERは評価の公開やレピュテーションを通じて企業の取り組みを後押しする仕組みです。このように両者は役割が異なり、相互に補完しながら環境改善を促進していると考えられます。


安田

各企業が独自の強みを生かしながら、様々なアプローチでPROPERの評価基準に応えていることがよく分かりました。

国際企業への期待まとめ

安田

それでは最後に、PROPERの専門家として外資系企業に期待することをお話ください。

ヌルル博士

AMITAのような海外企業には、PROPERをはじめとする各種制度を通じた国の環境目標の達成に向け、単なるサービス提供者としてではなく、インドネシアにおけるコ・プロセッシングやサーキュラーエコノミーの発展に向けて、積極的なパートナーかつロールモデルとして関与していただきたいと考えています。革新的なソリューションや技術の提供を通じて、産業エコシステムの構築に貢献することが期待されます。


また、専門的な知見を活かし、有害廃棄物のデジタルトレーサビリティや透明性を確保するためのプラットフォーム構築を支援するとともに、中小企業に対する能力開発や知識移転の推進にも寄与いただきたいと考えています。


安田

本日は貴重なお話をありがとうございました。PROPERが規制の枠を超えて、企業の意識や行動そのものを変えていく仕組みであることがよく分かりました。私たちアミタも、信頼されるパートナーとして、インドネシアの資源循環の発展に貢献していきたいと思います。

編集後記

今回のインタビューから、PROPERが従来の制度と異なる特徴を持ち、大きな成果を上げてきたことが分かりました。特に、金銭的なインセンティブではなく、社会的評価と情報公開を活用して企業行動を変える仕組みは非常に印象的です。


一方で、現在は製造業・エネルギー・農業などの主要高負荷産業に限定されていますが、今後はより幅広い産業への展開も期待されます。

話し手プロフィール(取材時点)

ヌルル・ジャンナ博士(Dr. Jannah Nurul)

インドネシア環境省の元高官であり、現在はボゴール農科大学(IPB University)の教授。研究分野は、企業の環境管理の遵守向上と透明性の確保を目的とした政策プログラム「PROPER」。

聞き手プロフィール(取材時点)

安田 美香

アミタホールディングス株式会社 海外事業統括グループ

編集者プロフィール(取材時点)

ジェニファー・リー

アミタホールディングス株式会社 海外事業統括グループ

執筆者情報

  • おしあみへんしゅうぶ

    おしアミ編集部

    アミタ株式会社

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