コラム
インドネシアにおける企業のサステナビリティ ~環境対策/廃棄物対策から事業機会まで~循環への航海 ~インドネシア廃棄物管理の現状と未来~
本連載コラム「循環への航海」ではこれまで4回にわたり、インドネシアの廃棄物管理を多角的に掘り下げてきました。アジア最大級の埋立地の存在に象徴される深刻な廃棄物の現状から始まり、それに対応するための政府の法規制、国が掲げる脱炭素とサーキュラーエコノミーという今後の理想について、最後にその実現を阻んでいる課題と企業への影響まで見てきました。
最終話となる本記事では、これまでの議論を総括し、複雑で変化の激しいインドネシアで企業はどのようにビジネスの舵取りをしていくべきか、その「羅針盤」を示します。
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インドネシアの廃棄物管理、その現在地
まず、我々が直面しているインドネシアの廃棄物管理の現在地を再確認しましょう。そこには、2つの大きな特徴が見えてきます。
1つは「理想と現実の大きなギャップ」です。
インドネシア政府は「2060年までのネットゼロ」や「2040年までのゼロウェイスト」といった野心的な気候目標を掲げ、その達成手段としてサーキュラーエコノミーを国家開発計画に組み込む方針です。
しかしその裏では、依然として石炭火力への高い経済的依存や、公式な廃棄物管理率が39%に留まるというインフラや社会体制の圧倒的な未整備、そして廃棄物を「価値のないもの」と見なしている市民意識といった根深い課題が横たわっています。
そしてもう1つが「規制強化と企業責任の増大」です。
政府は拡大生産者責任(EPR)の考え方に基づき、製造業者や小売業者に対して、2029年までに廃棄物を30%削減するためのロードマップ策定を求めるなど、企業の役割と責任は年々増しています。一方で、その規制には業界ごとの明確な基準がないなど一貫性を欠く側面もあり、多くの企業にとって混乱の種となっているのも事実です。
企業が取るべき3つの戦略的アプローチ
このような環境下で、企業が持続的にビジネスを展開していくためには、どのような舵取りが必要なのでしょうか。
それには、以下の3つの戦略的アプローチが有効だと考えます。
- コンプライアンスとリスク管理の再構築
複雑なインドネシアの廃棄物規制を踏まえて、まずは廃棄物リスク管理を徹底しましょう。
現代の環境制約下でコンプライアンス遵守を怠ることは、事業の存続そのものを危うくします。
特に、有害危険産業廃棄物(B3廃棄物)の排出者は、その管理と安全な梱包、表示が厳しく義務付けられていますので、自社の対応状況の早急な確認が必須です。自社の廃棄物管理体制を徹底的に見直した後、サプライチェーン全体で法規制を遵守するコンプライアンス体制を盤石にすることが、最初のスタートとなるでしょう。
- サーキュラーエコノミーを競争力へ
次に目指すべきは、規制対応をビジネスチャンスへと転換させる「攻め」です。廃棄物を単なる「コスト」ではなく、新たな価値を生む「資源」として捉え直す視点が、これからの時代には必要です。
関連記事:企業にとってのサーキュラーエコノミーとは?取り組む際のポイント、メリットについて解説!
すでにEU及び多くの先進国をはじめとした国では取り組みが始まっていますが、政府が策定し、企業に迫ってくる廃棄物削減や資源効率向上のロードマップを、受動的な義務としてではなく、自社の製品設計や事業モデルを見直す機会と捉えるのです。インドネシア内で環境意識の高い消費者に自社の環境先進性を示し、逆に意識の低い市民への意識・行動変容の啓蒙を行うことは、インドネシア政府や投資家からの評価を高める機会となり得ます。
- ステークホルダーとの連携
しかし、これらの取り組みは一社単独では限界があります。この機会を成功に導くためには、多様な関係者と手を取り合う「共創」の視点が欠かせません。
政府、業界団体、そして廃棄物管理を担う民間企業との連携はもちろんですが、特にインドネシアにおいて重要なのが地域社会との連携です。ここまでのコラムを通してご紹介してきた住民がリサイクル可能な廃棄物を持ち込み、対価を得られる「ごみ銀行(バンク・サンパ)」や、地域単位で3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進する「TPS-3R」といったコミュニティ主体の取り組みは、人々の行動変容を促す有効な手段として機能しています。徐々に顕在化し社会的効能を発揮してきているこうした草の根活動を支援し、連携することで、地域に根差した持続的な資源循環ループ構築の足掛かりとなるでしょう。
また、複雑な規制や高度な処理技術に関しては、廃棄物に関する専門的な知見を持つパートナーと連携することも、効果的でしょう。
おわりに
ここまで説明してきたように、インドネシアの廃棄物問題という荒波は、企業にとって「課題」であると同時に、自社のビジネスモデルを変革し、社会と共に持続可能な未来を創るための「機会」でもあります。
守りを固め、攻めに転じ、そして周囲と共創する・・・この課題と機会に対し、国内外の専門企業が現地の大手企業と連携し、具体的なアクションを起こす動きはすでに始まっています。アミタグループでも2027年中の再資源化工場を建設、稼働開始を目指すなど、まさに「共創」を体現する動きが現実のものとなりつつあります。
今後おしえて!アミタさんでは、本コラムの中でも触れた「B3廃棄物の管理」に関する法規制を詳しく紹介したコラムや、環境省、インドネシアの廃棄物関係に精通した専門家、そしてインドネシアの現地企業へのインタビュー等、様々な企画を皆さまにお届けすべく準備中です。
5回にわたってお届けした本コラム「循環への航海」が、成長著しいインドネシア市場での事業を切り拓く第一歩となれば幸いです。
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執筆、編集
アミタホールディングス株式会社
海外事業統括グループ
城地 咲知
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