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TCFDが求めている「シナリオ分析」とは、何のために行うものですか。どのように対応すればいいのでしょうか。

TCFD( The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures 気候変動関連財務情報開示タスクフォース、 以下 TCFD)」は、企業が気候変動への対応を経営の長期的リスク対策および機会の創出として捉え、投資家等に向けた情報開示や対話を促進することを目指しています。

シナリオ分析」は、その際に中核的な役割を果たすもので、気候変動がより顕在化した未来の具体的なシナリオに基づき、気候変動が自社に及ぼす影響や、その影響下での事業の継続性などを示すものです。本記事ではTCFDの最新動向とシナリオ分析についてご紹介します。

目次
最新動向1|2021年3月コーポレートガバナンス・コード改訂によるTCFDの実質的な義務化

2021年3月、金融庁と東京証券取引所の有識者会議によって、コーポレートガバナンス・コードの改訂が発表されました。改訂版は、現在行われているパブリック・コメント(意見公募期間4/7~5/7)を経て、2021年6月に施行される予定です。改訂内容の1つに「TCFD提言に沿った気候変動に関するリスクを開示すること」が盛り込まれており、企業の情報開示が促されています。日本がコーポレートガバナンス・コードでTCFD提言に沿った情報開示を求めるのは初めてのことです。
 改訂案の中では、特に2022年4月から予定されている市場再編において、プライム市場に上場する企業について「国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDに基づく質と量の充実を求めるべきである」と明記されており、TCFD提言への対応が必須となる可能性が目の前まできています。

今、TCFDは様々な重要な指標の枠組みとして重視されています。例えば、国際的な情報開示プログラムであるCDP( Carbon Disclosure Project カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト、以下 CDP)の気候変動の質問書は、TCFD提言の開示推奨項目を含んだ質問構成となっています。また、ESG評価、ESG投資インデックスで有名なFTSEも2018年に気候変動の評価項目にTCFD提言を反映させています。さらに、2021年6月からFTSE4Good指数の気候変動の基準を改定すると発表されています。新しい基準になった場合、FTSE Blossom Japan Index の銘柄の内10%の企業において、インデックス除外の可能性があり、気候変動への取り組みの強化が求められます。

最新動向2|2021年3月「TCFDシナリオ分析実践ガイドver3.0」が公表 実用的な内容に改訂

2021年3月、環境省が「TCFDシナリオ分析実践ガイドver3.0」を公表しました。実践ガイドver2.0から具体的に拡充されたポイントをご紹介します。

主な拡充内容
1.実務担当者向けに「シナリオ分析」の文章形式の手引きを追加
 今回の実践ガイドver3.0では「実践のポイント」ついて文章形式の解説(手引き)が追加
 されており、シナリオ分析についての理解をより深めることができます。
 
2.シナリオ分析実践のポイントにステップ6「文書化と情報開示」が新たに加わる
 実践ガイドver3.0より、シナリオ分析実施後の開示についての記載が追加されました。
 "何を""どこまで"開示をするかという点が解説されている他「組織戦略のレジリエンスの示し方」
 など、実際の企業の開示事例も紹介されています。

3.シナリオ分析のためのパラメーターのアップデート
 シナリオ分析に用いる関連情報(パラメーター)について、代表的な参考文献であるIEA World
 Energy Outlook 2020では、世の中の潮流に合わせて、1.5℃シナリオやCOVID19停滞シナリオ
 等が新たに盛り込まれました。

4.セクター別シナリオ分析の新しい実践事例6社追加へ
 環境省が2020年にシナリオ分析の支援を行った下記企業の実践事例が紹介されています。
 ・オリックス・アセットマネジメント株式会社
 ・九州旅客鉄道株式会社
 ・信越化学工業株式会社
 ・三井金属鉱業株式会社
 ・株式会社安川電機
 ・アスクル株式会社

5.継続的なシナリオ分析の重要性への言及

以上が、今回公表された実践ガイドver3.0の主な改訂内容です。シナリオ分析に初めて取り組む企業と継続的に取り組む企業の両者に向けて、実用的な内容が拡充されました。また、環境省は希望する企業には実践ガイドを冊子として1部無料配布(送料実費負担)の受付を行っています。

▼環境省:『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0~』
https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf
▼環境省による解説資料
https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_kaisetsu2.pdf

「シナリオ分析」の位置付けとは?

TCFDが求める情報開示は、組織の運営方法の中核要素である4つの主要分野を中心に構築され、推奨開示項目と定めています。「シナリオ分析」は下記の表の戦略のc)に該当します。

なおc)の内容はa)b)を含みますので、リスクと機会の特定・影響評価は「シナリオ分析」の一部であるとも言えます。

情報開示の
主要分野
具体的項目
ガバナンス a)気候関連のリスク及び機会についての、取締役会による監視体制を説明する
b)気候関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する
戦略 a)組織が識別した、短期・中期・ 長期の気候関連のリスク及び機会を説明する
b)気候関連のリスク及び機会が組織のビジネス・ 戦略・財務計画に及ぼす影響を説明する
c) 2℃以下シナリオを含む、さまざまな気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンスについて説明する
リスク管理 a) 組織が気候関連リスクを 識別・評価するプロセスを説明する
b) 組織が気候関連リスクを 管理するプロセスを説明する
c) 組織が気候関連リスクを 識別・評価・管理するプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する
指標と目標 a) 組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示する
b) Scope1、Scope2 及び当てはまる場合は Scope3 の温室効果ガス (GHG)排出量 と、その関連リスクについて開示する
c) 組織が気候関連リスク及び機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績について説明する

企業が「シナリオ分析」を実施する意義

「シナリオ分析」では、2℃以下を含んだ複数のシナリオ(2℃シナリオ(又は 1.5℃シナリオ)と 4℃シナリオ)※を用いて実施することが推奨されています。

※2℃シナリオ(又は 1.5℃シナリオ)と 4℃シナリオ:IEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)等から発行される気候関連シナリオの俗称で、各シナリオが示す温度に気温上昇を抑えるために必要な経済施策、またその温度上昇時に想定される環境被害などを示しています。

これは、未来を正確に予測することは難しいため、ある程度幅を持たせた予測・対応が必要であるという認識のもと、企業はどのような未来(シナリオ)においても、事業を本当に継続できるのかどうかの判断材料を提供することが求められているということです。

具体的には、「シナリオ分析」の結果、以下の事項が明らかになる(証明するのではなく、論理的な説明が求められている)ことで、投資家・金融機関との対話が促進されると考えられます。

  • 「気候関連リスクに対するマテリアリティ評価」(リスクと機会)の妥当性
  • 気候変動の影響下における事業の継続性(レジリエンス)

投資家・金融機関としては、CO2排出量削減の目標数値だけではなく、様々な観点からどのように気候変動の影響を捉えているのかを知ることで、その企業の長期的リスクがより詳細に判断できるようになります。また、分析のプロセスと結果を開示することが、経営全体の戦略についての建設的な対話にもつながります。

シナリオ分析の具体的な手順

例えば、既存の外部シナリオを一から読み込んで、気候変動がより顕在化した未来において、自社にどのような影響があるのか漏れなく洗い出す、という手法は煩雑であまり現実的ではありません。

一方、CDPへの回答を作成する過程で、すでにTCFDが求める戦略分野のa)b)(リスクと機会の特定・影響評価)までは実施しているという企業も少なくないと思います。また、気候変動によって引き起こされる一般的な影響については、既にTCFDによって類型が示されています(移行リスク、物理的リスク)。CDPの回答は行っていないという場合でも、これを参考にしてリスクと機会の特定を行うことはできます。

具体的には、

  1. 気候変動に対する一定の理解がある前提で、自社のビジネスモデルに関わりの深い制度や技術、重要度の高い地域・原材料等に対して、気候変動がどのような影響を及ぼすのか、社内の様々な立場の者から意見を吸い上げます。

  2. さらに、それを重要度に沿って整理して「マテリアリティ(重要課題)」に仕立てていく中で、その影響を定性的に評価していくことができるでしょう。

弊社では、シナリオ分析の目的を整理した上で、短期間でポイントを押さえつつ、本業と統合していくことも意識した分析の手法として下記のようなフローで支援を行っています。

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(画像はクリックすると拡大します。)

押さえておくべきポイント1.どのようなシナリオを設定するか

どのようなシナリオを「独自に作成」または「既存の外部シナリオを引用」するかは、企業の判断に任されています。
では、自社にとって都合のいいシナリオを自由に作ってしまっても良いのでしょうか?
シナリオ分析結果の解釈に当たっては、結論のみならず、そこに至る検討のプロセスについて投資家等が納得できるようなストーリーや論理性をもって開示することが投資家等の理解を深める上では重要だとされています。それを読んだ人の理解が得られる範囲で、ある程度信用に足るレベルが望ましい、と言えるでしょう。
また、単一のシナリオではなく複数のシナリオを想定することがレジリエンスの高さの観点において推奨されています。さらに、昨今では、2℃以下のシナリオの選択が推奨されています。

押さえておくべきポイント2.影響の定性的・定量的な評価

シナリオ分析は"できるところから"スタートし"段階的に対応"することが重要だと言われています。また金融機関は、精緻なシナリオ分析を求めているわけではなく、気候変動のリスク・機会についてどのように考え、経営しているかのチェックポイントとしてシナリオ分析の結果を見ています。
結論としては、定性的でも問題はないのですが、ある程度の根拠がなければ社内合意も取りづらいですし、機関投資家や金融機関に対して「なんとなく決めた」と答えるわけにはいかないでしょう。
ポイントとしては、具体的なリスクや機会について、定量的に評価するためにはどのような情報が必要なのかをまず明確にすることです。
定性的・定量的いずれの観点から評価するにせよ、「このようなデータがなければ判断しづらい」ということが明確になった時点で、既存の外部シナリオ等を参照したり、客観的な周辺情報をもとに独自に予測を行ったりすることで、最終的に具体的な数字は出せなくても、ある程度のレベル感を持って判断することができるようになります。

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(画像はクリックすると拡大します。)

TCFDに沿ったシナリオ分析をサポートし、本業とサステナビリティを統合

SBT,SDGs等に引き続き「また新しく対応しなければならないものが出てきた」と感じている担当者の方も多いと思います。しかし、サステナビリティ経営の本質は、次から次に現れる新しいテーマを処理していくことではなく、長期的なビジョンに向かいながら、各テーマへの対応を通じて「事業の持続可能性」を向上させていくことです。今回紹介したシナリオ分析も、やり方によっては本業の長期的な戦略策定に活かすことができます。

事業創出プログラム「Cyano Project(シアノプロジェクト)」を提供しています!

アミタは2021年から事業創出プログラム「Cyano Project(シアノプロジェクト)」を開始いたしました。企業が「イノベーションのジレンマ」に陥ることなく、時代や社会の変化に合わせて新たな価値を創出し、経営と社会の持続性を高めることを目的とした約3年間の事業創出プログラムです。今日の脱炭素経営の観点においては、野心的な温室効果ガス(GHG)の削減目標が求められ、既存の削減方法では目標を達成することは困難になります。そうした状況の変化にも対応ができるよう「Cyano Project(シアノプロジェクト)」では、企業のビジネスモデルやサプライチェーンの再構築による事業創出(新たな削減方法)を通じて、脱炭素経営を充実させることができます。
特設サイトはこちら:https://www.cyano-amita.com/

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参考情報

SBT公式サイト:The imperative for raising ambition
Science Based Targets initiative announces major updates following IPCC Special Report on 1.5°C
環境省:https://www.env.go.jp/policy/tcfd.html

執筆者プロフィール(執筆時点)

Mr.nakamura_014.jpg中村 圭一(なかむら けいいち)
アミタ株式会社
社会デザイングループ

静岡大学教育学部を卒業後、アミタに合流しセミナーや情報サービスの企画運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析や製造、営業とアミタのサービスの上流から下流までを幅広く手掛ける。現在は分析力と企画力を生かし、企業の環境ビジョン作成や業務効率化などに取り組んでいる。

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