地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)とは?6月2日公布、改正のポイントは? | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載!

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地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)とは?
6月2日公布、改正のポイントは?

Image by Darkmoon_Ar from Pixabay

日本政府は、2020年10月に、パリ協定に定める目標を踏まえて「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2021年3月には「地球温暖化対策の推進に関する法律(以下、温対法)」の一部を改正する法案を閣議決定しました。温対法の改正は5年ぶりとなり、脱炭素社会実現に向けた動きが加速することが考えられます。二酸化炭素排出を伴う事業活動を行う企業にはどのような影響があるのか、そもそも温対法とは何か、今回の改正のポイントを解説します。

※2050年カーボンニュートラル...2050年までに、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いてゼロを達成することを意味しています。

目次

地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)とは?

温対法は、1997年に開催された「気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)」での京都議定書の採択をきっかけに、1998年に制定された法律です。国、地方公共団体、事業者、国民が地球温暖化の対策に取り組むための枠組みを定めました。温対法における「地球温暖化対策」の定義は「温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化その他の国際的に協力して地球温暖化の防止を図るための施策をいうものとすること」です。これまでの温対法の主な改正経緯は以下の通りです。

主な改正経緯の概要
1998年成立 COP3における京都議定書の採択により、地球温暖化対策に取り組む枠組みを決定。
2002年改正 京都議定書締結を機に、目標達成計画の策定、地球温暖化対策推進本部を設置。
2005年改正 京都議定書の発効及び日本の温室効果ガス排出量の増加を機に、温室効果ガスを一定量以上排出する特定排出者には、国に温室効果ガス排出量の報告を義務付ける。
2006年改正 京都議定書第一約束期間を前に、約束達成に不足する差分について、途上国で実施する温室効果ガスの排出削減プロジェクトからの削減量を自国の削減量に算入する「京都メカニズム」の活用整備等を定める。
2008年改正 京都議定書に定める温室効果ガス6%削減目標の達成を確実にするため「京都議定書目標達成計画の評価・見直しに関する最終報告」に盛り込まれた追加的削減効果の担保、既存対策の底上げなど実行計画の強化を行う。
2013年改正 京都議定書第一約束期間が終了すると同時に、目標達成計画も終了することから、新たに「地球温暖化対策計画」を策定。
2016年改正 温室効果ガスを2030年までに2013年度比で26%削減する目標を掲げていたが、達成のために家庭・業務部門で約4割の削減が必要だったため国民へ地球温暖化への自発的な取り組みを促すよう啓発強化。
2021年改正 2020年に宣言した「2050年カーボンニュートラル」、さらにパリ協定に定める目標を踏まえ、基本理念の新設を決定。

出典:環境省「地球温暖化対策推進法の成立・改正の経緯」をもとにアミタで作成

温対法の改正にある背景とは?

今回で温対法の改正は5年ぶり、7度目となります。改正の背景には世界全体で取り組むパリ協定に定める目標(世界全体の気温上昇を2℃より十分下回るよう、更に1.5℃までに制限する努力を継続)、2050年カーボンニュートラルの宣言が影響しています。
日本では、2050年カーボンニュートラルを目指す「ゼロカーボンシティ※1」を表明する自治体が増加しています。下図にあるように、ゼロカーボンシティを表明している自治体は、2020年10月頃に2050年カーボンニュートラルの宣言以降、増加していることがわかります。

numberofcarboncity.png

出典:環境省「2050年 二酸化炭素排出実質ゼロ表明 自治体

また、ESG金融※2が浸透していく中で、企業の脱炭素経営への取り組みも広がっています。日本は、下図のTCFDSBTRE100といった国際的な脱炭素削減の枠組みへの賛同を表明している企業が多くあります。下図にあるように、TCFDにおいては世界で2,230の金融機関、企業、政府等が賛同を表明しており、その内日本の機関は415機関でその数は世界第1位です。

TCFD.png

出典:環境省「TCFD、SBT、RE100 取組企業の一覧

このような潮流がきっかけとなり、さらなる地球温暖化対策の推進に向けて今回の温対法改正に至りました。

※1ゼロカーボンシティ... 環境省は「2050 年に温室効果ガスの排出量又は二酸化炭素を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが又は地方自治体として公表された地方自治体」をゼロカーボンシティとしている。

※2 ESG金融...ESG金融とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)という非財務情報を考慮して行う投融資のこと。

今回の温対法改正のポイントは何ですか?

今回の温対法改正のポイントは3つあります。基本理念の新設、地域での地球温暖化対策の促進に関する事項、さらに企業の脱炭素経営化の促進のための事項です。以下で順を追って解説します。

  1. 基本理念の新設
    2016年の温対法の改正以来、パリ協定の締結、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)1.5度特別報告書の公表、2050年カーボンニュートラル宣言等など、日本にとって地球温暖化対策への枠組みや取り組みの大きな節目となる機会がありました。これらの重要な世界的潮流がきっかけとなり、温対法の基本理念を新設することとなりました。国が2050年カーボンニュートラルの実現を牽引することを明確にし、たとえ政権が変わっても長期的に脱炭素の政策を継続することが約束されたことになります。法に明記することで、国民や事業者、地方公共団体は、これまで以上に躊躇することなく地球温暖化対策の取り組みにコミットすることで、イノベーションの加速が期待されています。

▼新設された基本理念

第二基本理念
地球温暖化対策の推進は、パリ協定第二条1において世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも(a) 摂氏二度高い水準を十分に下回るものに抑えること及び世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏一・五度高い水準までのものに制限するための努力を継続することとされていることを踏まえ、環境の保全と経済及び社会の発展を統合的に推進しつつ、我が国における二千五十年までの脱炭素社会(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。)の実現を旨として、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならないものとすること。(第二条の二関係)
  1. 地域における脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認定制度の創設
    地方公共団体では、これまで、温対法に即して地球温暖化対策を推進していくための「地方公共団体実行計画」を策定することが求められてきました。しかし、これからの地球温暖化対策には実行計画の実効性をさらに高める必要があり、今回の改正では、施策の実施に関する目標が追加されるなど実行計画の拡充が行われます。また、地域における脱炭素化に欠かせない再エネの活用についてもこれまで再エネ事業に関連する地域トラブルが見られ、地域の合意形成が図りづらいという課題がありました。そこで再エネ利用を促進するための仕組を創設するなど、再エネ事業の円滑化が図られます。

▼主な改正内容

1.都道府県の実行計画制度の拡充 (1)実行計画の実効性を高めるため、都道府県、政令市、中核市の実行計画において、再エネ利用促進等の施策※1に関する事項に加え、施策の実施に関する目標を追加する。
(2)都道府県の実行計画において、地域の自然的社会的条件に応じた環境の保全に配慮し、省令で定めるところにより、(地域脱炭素化促進事業について市町村が定める)促進区域※2の設定に関する基準を定めることができる。
2.市町村による実行計画の策定 (1)市町村(指定都市等は除く。)は、実行計画において、その区域の自然的社会的条件に応じて再エネ利用促進等の施策※1と、施策の実施目標を定めるよう努める。
(2)市町村は、(1)の場合において、協議会も活用しつつ、地域脱炭素化促進事業の促進に関する事項として、促進区域※2、地域の環境の保全のための取組、地域の経済及び社会の持続的発展に資する取組等を定めるよう努める。
3.地域脱炭素化促進事業の認定 (1)地域脱炭素化促進事業を行おうとする者は、事業計画を作成し、地方公共団体実行計画に適合すること等について市町村の認定を受けることができる。

(2)(1)の認定を受けた認定事業者が認定事業計画に従って行う地域脱炭素化促進施設の整備に関しては、関係許可等手続のワンストップ化※3や、環境影響評価法に基づく事業計画の立案段階における配慮書手続の省略も可能といった特例を受けることができる。

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出典:環境省「改正地球温暖化対策推進法について

出典:環境省「改正地球温暖化対策推進法について」をもとにアミタで作成

これまで「宣言」でとどまっていたゼロカーボンシティも今後は「実現」のフェーズへ移行します。自治体の意欲的な目標設定や再エネ事業候補地の選定など具体的な計画が策定されれば、事業者にとっても再エネ事業への取り組みが円滑になり、さらには需要家としての再エネ導入も容易になり一石二鳥です。
ゼロカーボンシティの取り組み事例として、千葉市では民間企業が市の避難所に初期費用なしで太陽光発電設備及び蓄電池を設置し、発電量に応じた電気料金を回収する取り組みを行っています。災害時には太陽光発電及び蓄電池からの電力供給で避難所としての機能を発揮し、地域貢献も見込まれています。このような、災害時のリスクヘッジの他にもEV車のためのインフラ整備、廃棄物エネルギーの利活用など、地域に貢献する再エネ事業の普及が期待されています。事業者にとっても地域における脱炭素化を促進するための今回の改正は、大きな影響をもたらすと考えられます。

※1再エネ利用促進等の施策...施策のカテゴリには4つあり、1.再エネの利用促進、2.事業者・住民の削減活動促進、3.地域環境の整備、4.循環型社会の形成。

※2促進区域...環境保全に支障を及ぼすおそれがないものとして環境省令で定める区域の設定に関する基準に従い、かつ、(都道府県が定めた場合にあっては)都道府県の促進区域の設定に関する環境配慮基準に基づき、定めることとなる。(第21条第6項及び第7項)

※3手続きのワンストップ化...自然公園法に基づく国立・国定公園内における開発行為の許可等、温泉法に基づく土地の掘削等の許可、廃棄物処理法に基づく熱回収施設の認定や処分場跡地の形質変更届出、農地法に基づく農地の転用の許可、森林法に基づく民有林等における開発行為の許可、河川法に基づく水利使用のために取水した流水等を利用する発電(従属発電)の登録。

  1. 企業の脱炭素経営の促進に向けた温室効果ガス排出量のデジタル化・オープンデータ化の推進
    温対法では、ある一定以上の温室効果ガスを排出する事業者には、国に温室効果ガス排出量の報告が義務付けられています。しかしながら、これまで排出量の報告は紙媒体での報告が基本で、報告から公表まで約2年もの期間が必要とされていました。今回の改正では、これらの大幅な改善が見込まれます。排出量の報告方法は、原則電子システムへの入力となります。電子システムへの入力により、報告から公表までの期間を約2年から1年未満へと短縮する方針です。また、これまで事業所ごとの排出量を閲覧したい場合、開示請求の手続きが必要でした。しかし、今回の改正では、事業所単位の排出量もすべてオープンデータ化し、だれもがその情報にアクセスすることが可能となります。したがって、ステークホルダーからの視線も強まると同時に企業の温室効果ガス削減への意識が高まり、積極的な削減施策の実行が期待されます。
施行期日はいつですか?

改正法の施行期日は、1.基本理念の新設については公布の日である2021年(令和3年)6月2日です。また、2.地域における脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認定制度の創設と3.企業の脱炭素経営の促進に向けた温室効果ガス排出量のデジタル化・オープンデータ化の推進に関しては、公布の日から起算して1年を越えない範囲内において政令で定める日から施行することとされています。2と3の施行日、そして実務的な影響については今後の情報にも注目する必要があります。

さいごに

今回の改正で基本理念の創設、地域における再エネ促進、企業の排出量のデータオープン化など、国民、地方公共団体、事業者それぞれの対策が施されました。環境省によれば、基本理念の創設は、政策の方向性や継続性を明確に示すことで、あらゆる主体(国民、地方協団体、事業者等)に対し、予見可能性を与え、取り組みやイノベーションを促進すると提示しています。法に明記したことによって、脱炭素政策を長期に渡って取り組むという政府の意思を示したことになります。それと同時に企業や国民に求められる地球温暖化対策も高い実効性が必要になると考えられます。地球に住む以上、避けては通れない温暖化と向き合い、国民、地方公共団体、事業者すべての人が一丸となって対策していく必要があります。

事業創出プログラム「Cyano Project(シアノプロジェクト)」を提供

「Cyano Project(シアノプロジェクト)」は、企業が「イノベーションのジレンマ」に陥ることなく、時代や社会の変化に合わせて新たな価値を創出し、経営と社会の持続性を高めることを目的とした約3年間の事業創出プログラムです。
特設サイトはこちら:https://www.cyano-amita.com/cyanoPJ.png

執筆者プロフィール(執筆時点)

古城 日向子(こじょう ひなこ)
アミタ株式会社
インテグレートグループ カスタマーリレーションチーム

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