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Q&A

労働安全衛生法が改正されます。廃棄物管理において対応すべきポイントを教えてください。

2022年5月に行われた厚生労働省の労働安全衛生規則等の一部改正 は、事業場における化学物質管理の考え方を根本から変えることとなりました 。これに伴う労働安全衛生法令の改正について、廃棄物管理の側面を踏まえてお伝えします。

労働安全衛生法とは

労働安全衛生法(以下、安衛法)は、労働者が職場で安全・健康に働けること、快適な職場環境を形成することを目的とする法律です。その中には化学物質による労働災害防止のための新たな規制も含まれています。
法令により若干の違いがありますが、安衛法において化学物質は「元素及び化合物」(第2条第3号の2) と定義されています。日本では数万種類にのぼる化学物質が輸入・製造・使用されていますが「有機溶剤」「特定化学物質」と分類された100余りに関しては、個別規制により労働災害が減少しています。しかし個別規制の対象ではない化学物質による労働災害は後を絶ちません。この現状を踏まえ、個別規制による法令遵守ではなく、事業場が自ら必要な措置を選択する「自律的管理」を基本とした新たな化学物質規制の制度が導入されました。

労働安全衛生規則等の改正

今回の改正による新たな化学物質規制は内容が多岐に渡るため、2023年から2024年にかけて段階的に施行されます。確認を踏まえて、2023年4月に施行済のもの、2024年4月に施行を控えているものを確認しましょう。

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<新たな化学物質規制項目の施行期日>

引用元:厚生労働省_労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要

今回の改正項目には「化学物質」「リスクアセスメント対象物」「がん原性物質」「特別管理物質」...など様々な分類名が登場するので混乱されるかもしれません。労働安全衛生規則(以下、安衛則 ) における化学物質管理の体系は下図のとおりとなります(2023年10月現在)。

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<化学物質管理の体系>
引用元:厚生労働省_令和4年2月 新たな化学物質管理より引用

※上記の図の各物質に関する補足
・約7万物質=化学物質
・自主管理が困難で有害性が高い物質=特定化学物質・特別管理物質が含まれる
・許容濃度又はばく露限限界値が示されている危険・有害な物質=がん原性物質が含まれる
・674物質=リスクアセスメント対象物

産業廃棄物も法規制の対象

前述のとおり、安衛法における化学物質の定義は「元素及び化合物」であり、化学物質が産業廃棄物に含有されている場合は規制の対象となります。廃棄物管理の現場では安衛法への適切な対応が進んでいるのでしょうか。
2016年6月、政令で定める有害物質等(リスクアセスメント対象物質)を対象に、化学物質のリスクアセスメントが義務付けられました(安衛法第57条の3)。 下記のグラフは、その翌年に実施された労働安全衛生調査の結果ですが、化学物質のリスクアセスメント実施率は50%強にとどまっており、中でも小規模事業場ほど法令の遵守が不十分な傾向にあることが分かります 。小規模事業場が大半を占める(※2022年環境省実施調査より )産業廃棄物処理業界の現場においては、安衛法への対応はあまり進んでいないことが予測されます。
また、排出事業者から廃棄物に含まれるリスクアセスメント対象物質情報を十分に得ていないため、「危険有害作業なし」と判断している廃棄物処理業者の話を聞くこともあり、問題意識の低さも原因のひとつかと考えられます。

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平成29年労働安全衛生調査(実態調査)概況
<リスクアセスメント実施率>
引用元:厚生労働省_令和4年2月 新たな化学物質管理より引用

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平成30年労働安全衛生調査(実態調査)、平成26年労働環境調査
<職場における化学物質を巡る現状>
引用元:厚生労働省_令和4年2月 新たな化学物質管理より引用


今回の法改正はリスクアセスメントを前提とする項目が多数あるため、これまで実施できていない事業場でも対応が迫られるでしょう。では安衛法に適切に対応するにはどうすればよいでしょう。
それには排出事業者が廃棄物処理業者に提供するSDS(安全データシート)活用が効果的です。

廃棄物管理における安衛法対応

排出事業者は、廃棄物処理業者に対してWDS(廃棄物データシート)を提供しており、SDSの提供義務は必要ない、と考える方もいらっしゃるかと思います。しかし、安衛法は化学物質排出把握管理促進法とは異なり、廃棄物処理業者に対してもSDS提供義務があります。

WDS_SDS.png

<WDSとSDSの違い>
アミタ作成


厚生労働省は「ラベルでアクション」 のキャッチフレーズのもとに、化学物質のもつ危険有害性を把握し行動を起こすよう、すべての関係者に対し促しています。安衛法への対応は、排出事業者・廃棄物処理業者ともに協力し取り組みを進める必要があるでしょう。

関連記事:WDS(廃棄物データシート)の代わりにSDS(安全データシート)を使うことはできますか?

労働者の安全を守るために
  • リスクアセスメント結果等に関する記録の作成と保存
    SDSを入手したら、リスクアセスメントを実施します。
    リスクアセスメント結果については、下表のとおり今回の改正で記録の作成と保存期間が明確化されました。
安衛則第34条の2の8 概要
リスクアセスメントの結果と、結果に基づき講ずる措置の内容等を関係労働者に周知しなくてはならない
新(2023年4月1日施行) リスクアセスメントの結果と、結果に基づき講ずる措置の内容等を関係労働者に周知するとともに、記録を作成し次のリスクアセスメント実施までの期間(ただし、最低3年間)保存しなければならない

厚生労働省が「職場のあんぜんサイト」で、リスクアセスメント支援ツールを紹介しているので 状況に合わせて活用されるのもよいでしょう。

  • 労働者の意見聴取 記録の作成と保存
    リスクアセスメントを実施したら、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露※される程度を最小限にした上で、その措置の内容や、ばく露状況につき労働者の意見を聞く機会を設けなければなりません。また、措置の状況・ばく露状況・意見聴取状況につき記録を作成し3年間保存しなければなりません。(安衛則第577条の2)
    関係労働者又はその代表が衛生委員会(安衛則第23条)に参加している場合等は、その場の意見聴取と兼ねて行っても差し支えない とされており、議事録を聴取記録とすることができます。
    (衛生委員会の設置義務が無い)労働者数50人未満の事業場にはハードルが高いかもしれませんが、そのような事業場にも安全衛生について労働者の意見を聞く機会を設ける義務があります (安衛則第23条の2)ので、この機会に取り組みを進めましょう。
    ※ばく露:吸ったり触れたり食べたりしてしまうこと。さらされるという意味。

  • がん原性物質
    リスクアセスメント対象物の中で、発がん性が区分1(ヒトに対する発がん性が知られている、またはおそらく発がん性がある物質)に分類されたものが「がん原性物質」と分類されています。
    前述の安衛則第577条の2には、がん原性物質について下記の通り、記録の作成と保存について定められています。
記録すべき事項 保存期間
業務に従事する労働者のばく露の状況 30年
<作業記録>
労働者の、従事した作業の概要、作業に従事した期間
がん原性物質により著しく汚染された事態の概要および事業者が高じた応急の措置の概要
30年

作業記録の様式に特定のフォーマットがないため、対応に苦慮されるかもしれません。
厚労省が作業記録例 を公開しているので参考にされてはいかがでしょうか。

30年という長期にわたる記録の保存は事業者にとって負担が重いですが、発がん性には遅発性があります。日本において職業がんとして把握されているケースは、石綿による肺がん及び中皮腫として労災認定されている年間約900人、また労災認定されている年間20人程度です。
これらの数値は諸外国と比べて極端に少なく、実態が把握できていない可能性があります。また、退職後に発症した場合、主治医が退職前の業務を把握しているとは限らず、本人が業務との関連の可能性を認識できないと労災申請に至りません。 飛散性の高い産業廃棄物を扱う処理業者は、作業時にがん原性物質にばく露するリスクが高まります。確実に管理を実施しましょう。

まとめ

以上、2023年4月1日施行済の項目のうち数件につきお伝えしました。他の施行済項目、これから施行される項目について詳しくは厚労省ウェブサイト にてご確認ください。
これらの化学物質管理にかかる技術的事項は、2024年4月1日に選任が義務付けられる「化学物質管理者」が管理するものと位置づけられています。同じく保護具の選定、使用方法の周知、保守管理を行う「保護具着用管理責任者」の選任も義務付けられており、両者が連携する必要があります。
廃棄物管理の現場でもこの機会に「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」の候補者を選任し、必要な講習を受講して知識を高め、安衛法対応をすすめていきましょう。

参考情報

労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要

執筆者情報(執筆時点)

梅原 晃子 (うめはら あきこ)
アミタサーキュラー株式会社 
サーキュラープロダクトグループ プロセスマネジメントチーム
主に循環資源製造所・BIOの安全・環境・衛生担当。

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