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インタビュー

キヤノンに聞く サーキュラー・エコノミー実践の一歩は「LCAの見える化」から

日本でもサーキュラー・エコノミーへの注目度は年々高まっており、ビジネスモデルに取り入れる企業が増えています。
しかし、リサイクルとは異なり"循環させることをビジネスにする"というサーキュラー・エコノミーのゴールは従来のリニア型のビジネスモデルからの脱却であり、経営の変革、サプライチェーン上での変革が求められ、容易いものではありません。
では、サーキュラー・エコノミーをヒントに新たなビジネスチャンスを得るためにはどうしたらよいでしょうか。
今回は、限りある資源の循環利用に向けて、使用済み製品を回収して新品同様にリユース・リサイクルを行うなど、先進的な資源循環の取り組みをされている、キヤノン株式会社 サステナビリティ推進本部 理事 顧問の古田清人氏にお話を伺いました。

キヤノン株式会社は、高度な資源循環を実現するキヤノンの環境活動の発信拠点として2018年にキヤノンエコテクノパークを開所。複合機やトナーカートリッジ、インクカートリッジなど、自社の使用済み製品を回収し、リユースやリサイクルを行う最新鋭の工場と、環境への取り組みを楽しく学べる体験型ショールームを備えている。2008年以降、使用済み製品から取り出され製品の原材料として使われたプラスチック量は4万2,413t、リユースされた製品・部品量は3万3,619tとなった。また2021年には資源循環の取り組みにより、約5,000トンのCO2削減効果を出している。
キヤノンエコテクノパークについて

アミタ中村:本日はよろしくお願いします。早速ですが、「キヤノンエコテクノパーク」設立の背景を伺えますでしょうか。

古田氏:キヤノンでは、1990年からトナーカートリッジのリサイクルを始めました。世界各国に消耗品であるトナーカートリッジを提供する会社として、使用された後の製品をどうするかという点は後々問題になると予想されましたので、1990年に中国の大連でスタートさせました。その後、中国だけではなく、アメリカ、ヨーロッパそして日本へ広げていき、日本の拠点が現在のキヤノンエコテクノパークです。当時は、1992年にリオデジャネイロで地球サミットが開催され、環境問題が世界から注目され始めた頃でしたから、それよりも早く、資源回収に着目した先輩達には本当に感謝です。
エコテクノパークは、実は建設当初から工場見学を前提にして作られています。循環型社会の形成には、まだまだ技術や仕組みが足りていない部分が多いです。だからこそ、多くの方に見ていただいて、アドバイスをいただきたいという意図があります。逆に我々も他社様の工場を見せていただき、お互い切磋琢磨しながら、技術の向上を目指していきたいですね。
そしてもうひとつの意図として、子ども たちに工場の様子を見てもらいたいと思っています。リサイクルの過程を見ると、理科の授業で習う磁石や比重のなどが活かされている場面がたくさんあります。子どもたちには、工場見学を通して、3Rと実社会との繋がりを感じながら、理科の面白さも感じてもらえたらと思います。

キヤノンの資源循環フロー (キヤノン株式会社HPより)

canoncycle.png

アミタ中村: 御社は企業理念に「共生」を掲げられていますが、エコテクノパークとの関係性について教えていただけますか。

古田氏:「共生」の理念を実践している工場が、まさにエコテクノパークだとも言えます。事業を行うことで地球に負荷をかけていることは紛れもない事実であり、その負荷を最小限にすること、未来につなげていく努力をしていくこと、これがキヤノンの掲げる共生の考え方です。私自身「儲かれば、何でもして良いという時代」ではないと思っています。
  

「見える化」がサーキュラー・エコノミーの鍵

アミタ田部井:1990年代の環境問題は汚染による公害問題、廃棄物問題が注目されたように、環境といえば公害問題や廃棄物処理のような法律への対応がメインだったと思いますが、御社のようにリファービッシュ等の資源循環の考え方に至った変遷を伺ってもよろしいでしょうか。

古田氏:変化のきっかけになったのは、LCA(ライフサイクルアセスメント)でした。1990年代後半にLCAを知り、取り組みを開始しましたが、製品のライフサイクルでCO2排出量を算定している会社は少なく、当時はかなりアナログで計算していました。キヤノンのサプライチェーン上で計算した結果、今でいうScope3の領域であるお客様の使用段階での排出量が全体の60%ほどを占めていました。残り30%ほどが原材料の調達で、工場からの排出量は3%ほどでした。当時は第二次オイルショックの時代でしたので、工場の省エネには務めていましたが、そこばかりに取り組んでも本質的な課題解決にならないと、LCAによって気づきました。LCAで見える化をしたからこそ、2000年代からお客様の使用段階や原材料の調達による排出量にも目を向けていこう、と明確な方向付けができましたね。それから製品の省エネ化やリサイクル材を原料にするなど、実証を重ねていきました。見える化をすると、どこが問題か、どこを鍛えるべきか、改善すべきかを認識できるので、非常に大事だと思います。

ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数推移 (キヤノン株式会社HPより)

lifecycle_CO2.png

アミタ田部井:今でこそTCFDやScope1,2,3の算定のようにサプライチェーン上のCO2削減の取り組みが始まっていますが、今から20年以上も前にLCAに目を向けられたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

古田氏:当時ISOで製品情報発信の手法としてタイプI~IIIのエコラベルについて議論がありました。タイプIは第三者認証、タイプIIは事業者の自己宣言、タイプIIIはLCAで情報開示するというものです。当時はタイプIIが日本で流行っていましたが、タイプIIは自己宣言型であり、本質的ではないので、これでいいのかとモヤモヤしていました。またタイプIも製品エネルギーに特化した基準で決めていましたが、不十分さを感じていました。タイプIIIはライフサイクルで見ていくので、本質的な評価軸になると考えていましたね。
余談ですが、「LCAを計算して何の役に立つのか、いつまでやってんだ」という社内の声もありました(笑)。私自身は、LCAを取り入れることで、CO2排出量削減に向けて、会社全員が同じ方向を向けるようになると考えています。研究開発、物流、工場、調達、販売、それぞれが同じ目標に対して役割や使命を持って動けるようになる。そういう意味でも、LCAを取り入れるのは有効でした。

アミタ中村:当時は情報が少ない中、大変な部分もあったかと思います。

古田氏:結果20年という時間はかかりましたが、最後はLCAでの評価こそが本当の価値であり、本当に自社がやるべきことが見えてくると確信して、ここまで進めてきました。

アミタ中村:経営理念をしっかりと事業で体現するのは簡単なことではないと思いますが、その点はどのように克服されましたか。

古田氏:キヤノンの考え方として「三自の精神」があります。「自発・自治・自覚」の3つです。自分で考えて自発的に動き、自分の置かれている役割を自覚するという考えがDNAとして引き継がれています。さらに、エコテクノパークに関しては御手洗会長の想いは強かったですね。「リサイクル工場だからと言って汚くてはいかん。病院のような工場にしてくれ」ということで、「クリーン&サイレント」というコンセプトを作り実現してきました。

アミタ中村:サーキュラー・エコノミーは、バタフライダイアグラムにていくつかのサイクルに整理されています。これらのサイクルの実現について、どうお考えですか?

古田氏:実現するためには、企業が担う役割と社会の仕組みが担う役割を整理して、それぞれが得意な部分、キヤノンであればリユースに挑戦するなど、各自ができるところから進めていくのがよいと思います。環境問題は一社で解決できるものではありません。循環の仕組みというのは社会、行政、企業がそれぞれの役割を担う、役割分担が大事だと思っています。
リサイクルの要は「識別と分別」だと思っています。消費者の皆さんに分別をお願いするのも必要ですが、一方で限界もあります。多くの量を一度に回収し、それをどう識別・分別するかの技術が重要です。今後の技術の進化において、我々の技術が活用できるなら挑戦していきたいと思っていますし、世の中の技術が進化すればそれを積極的に活用していきたいと思います。

キヤノンエコテクノパークの今後の展望

アミタ田部井:色々とお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。最後にキヤノンエコテクノパークの今後の展望と、古田さまからメッセージをお聞かせください。

古田氏:今は気候変動問題が特に注目されていますが、解決手段は再エネ・創エネというのが見えており、あとはスピードの問題だと思います。一方、しっかり考えなければならないのは資源問題です。今のライフスタイルのまま世界人口が増えていけば、資源枯渇の深刻化に必ず直面します。実際に欧州市場では、新品ではなく、再生品であるRefreshedシリーズを指定して選ばれるような事例も出てきました。
今後については、製品の長寿命化や修理が容易にできる、交換できる製品の需要が高まることが想定されます。世の中の期待に応えられるよう、常に準備を進めていき、その中でキヤノンエコテクノパークの役割を進化させていきたいと思っています。
資源をまわす必要性の議論が始まって、今で5年くらいなので、技術や仕組みが出来上がるまでにあと10年はかかると思います。そのような未来を予測して、我々ができることに微力ながら挑戦していきたいと考えています。
最後に、これから未来を作っていくのは、次の若い世代の方々だと思います。2050年を生きるだろう世代の皆さんには、未来のためにぜひ挑戦し続けてほしいです。

アミタ中村:本日は貴重なお話をありがとうございました。

話し手プロフィール

furutasama3.jpg古田 清人(ふるた きよと)氏
キヤノン株式会社
サステナビリティ推進本部
理事 顧問
キヤノン入社後、環境部門に従事。2007年には環境本部 環境企画センター 所長に就任(2013年以降、「環境統括センター」に組織名が変更)。
2021年より、現職であるサステナビリティ推進本部 理事顧問に就任。

聞き手プロフィール

tabeipro.png田部井 進一(たべい しんいち)
アミタ株式会社 
取締役

アミタグループへ合流後、主に企業の環境部・サステナビリティ部門を対象に、環境ビジョンの策定や市場調査など、多くの支援実績を持つ。2020年より取締役として、アミタ(株)における営業および市場開拓を担当。アミタグループの事業の柱となる「社会デザイン事業」の確立に向けて、新規サービスの創出・新規市場開拓を進める。

ms_nakamura_kozue.jpg中村 こずえ(なかむら こずえ)
アミタ株式会社
社会デザイングループ 社会デザイン緋チーム

高知県出身。鳥取大学大学院終了後、環境問題に関心があり、アミタの「無駄なものなどこの世にない」という理念に共感して入社。現在は社会デザイングループにて企業向けのサステナビリティコンサルティングを担当。

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