インタビュー
鎌倉サーキュラーアワードに見る、鎌倉市の循環型まちづくりの今
「ゼロ・ウェイストかまくら」構想を掲げる鎌倉市で第1回鎌倉サーキュラーアワードが開催されました。鎌倉サーキュラーアワードに見る鎌倉市のサーキュラーエコノミーの取り組みとは?
鎌倉サーキュラーアワードが開催!
2024年10月5日、鎌倉市にて「鎌倉サーキュラーアワード」の結果発表と表彰式が開催されました。本アワードは、慶応大学の田中浩也教授を実行委員長に、慶応大学と鎌倉市が共同で行う10年間のプロジェクト「リスペクトでつながる共生アップサイクル社会共創拠点(COI-NEXT)」の一環として位置づけられています。アワードはサーキュラーエコノミーの創出と活性化を目的とし、市民部門、スタートアップ部門、事業者部門と3つの部門で構成されています。ファシリテーターや審査員には、主に鎌倉を舞台に活動をする企業や個人が選ばれています。合計で117件の応募があり、開催場所であった鎌倉市の生涯学習センターは鎌倉市民の熱気に包まれました。
▼鎌倉市 松尾市長
撮影:アミタ
「これまでも市民の皆さんは、すごく協力的にごみ問題について取り組んでくださっていますが、117件というたくさんのアイデアが集まったというのが驚きでした。今回のアワードで市民の皆さんの興味や課題感を可視化することができたと思います。市として、自分たちは何ができるのかを考えるということを、地域に定着させていく取り組みをしていきたいです。」
アワード総合審査委員長である松尾崇・鎌倉市長がインタビューに答えた言葉には、COI-NEXTが掲げる『循環者になるまち』というビジョンが現れています。
『循環者になるまち』を目指して
『循環者』とは何か、アワード実行委員長の田中教授は、別の取材で次のように語っています。
「サーキュラーエコノミーという言葉はありますが、それを人のあり方に割り当てた言葉がなかったのだと思います。『循環』を『消費』に変わる新たな自己表現の手段にしたいなと」
「『ごみにしない』という選択肢の多様性を増やすことで『循環』を新たな自己表現の源泉にできれば良いなと思っています。消費の選択肢と同じぐらい循環の選択肢を増やすことで、循環が自己表現になる。それが循環者の意味です」
IDEAS FOR GOOD『循環が、自己表現になる未来。慶應鎌倉拠点が目指す循環型社会モデルとは?』より
日本の多くの地域で自治体による合理的効率的なごみ回収の仕組みが動き、私たちが手放したモノの行く先に思いを馳せる必要もなくなったのは、いつからでしょうか。ごみ処理に多くの税金を使い、温室効果ガスを排出し、有害な焼却灰が管理型埋立地に蓄積していくことまで、私たちは選択したのでしょうか。
サーキュラーエコノミーは、政策の話であり経済の話であり、企業の取り組みの話でもありますが、田中教授が言うよう「人のあり方」の話でもあります。今の社会システムの中に暮らしながらも、それに「迎合するだけ」「加担するだけ」であることに疑問を感じた一人一人が、自らのモノの手放し方に、選択する自由と責任と自己表現を、プライドとともに少しずつ取り戻していく。『循環者』という言葉には「消費者」や「生活者」といった言葉で一括りにできない、一人一人の「循環」への向き合い方を静かに肯定するような響きがあります。
『循環者になるまち』であろうとする鎌倉市は、誰もが自分にできることから始めて循環に参加し、お互いの取り組みを認め合いながら広がっていく市民の力を信じ、応援するまちづくりを進めています。
2024年度で焼却処理施設の稼働停止を決めている鎌倉市は、循環型社会を形成するために「ゼロ・ウェイストかまくら」という理念を掲げてごみ削減の取り組みを行っています。
▼「循環者になるまち」構想 イメージ
出典:JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)
リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点
アワード表彰式の様子
5日は市民の部の最終プレゼンテーションも行われ、鎌倉市民より生活に根付いた疑問を中心にアイデアが挙げられました。
▼サーキュラーアワード授賞式終了後の様子
撮影:アミタ
▼参加者に送られた3Dプリンター製のトロフィー
撮影:アミタ
▼家庭ごみの削減方法を発表する様子
(発表者:「たけみちブラザーズとその家族」さん)
撮影:アミタ
コンポストの湿度や温度管理をする小型装置、海ごみを使用したガラスカップ、コーヒーかすを活用したお菓子など多様なアイデアが出ましたが、市民の部で金賞を受賞したのは、家庭ごみの状況を家族全員で調査し、その結果からティッシュを布に置き換えるというアクションでした。家族だけでなく身近な人たちと協力し、できるところから楽しみながらはじめるという、生活や日常に基づいたアイデアが評価されました。まさに、小さくてもいい、できるところからでいい、自分や家族の暮らしに向き合って、それぞれのやり方で「循環者」になろうとする一人一人を讃えたい、というアワード関係者の眼差しが感じられた受賞でした。
市民部門 金賞 受賞者名:たけみちブラザーズとその家族 応募アイデア:我が家のごみだったものが救世主に。なんだって変身する「布」が大活躍! 詳細:家族全員で家庭から出ているごみの種類や量を調査し、頻繁に捨てられているティッシュなどの紙類を古着や布に置き換えることで、ごみを削減するアイデア。 |
スタートアップ部門 金賞 企業名:株式会社JOYCLE 事業内容:「ごみを運ばず、燃やさず、資源化する」分散型インフラサービスの提供 株式会社JOYCLEの詳細はこちら |
その他の受賞者の情報や、入賞したアイデアは鎌倉サーキュラーアワードのnoteで随時紹介される予定です。
鎌倉サーキュラーアワード:note
今後の展望:田中教授インタビュー
COI-NEXTのプロジェクトリーダー、そして鎌倉サーキュラーアワードの実行委員長でもある、前述の田中浩也教授は今回のアワードの結果を「想像以上だった」と評しながらも、第2回の開催に向け更なる展望を述べられています。
「3つの部門に分けて開催したことで、それぞれの視点が混ざりあっていたことが、特によかった点だと思っています。今後は起業を検討中の方や、新サービスを開発中の事業者など、多様な方を対象にするために、部門のカテゴリー分けの検討を進めたいと思います。」
「今日サーキュラーアワードに来られている方は、比較的環境意識が高い人になるかと思います。環境への意識が特別高いわけではない『普通の人』を『循環者になりたくさせるか』というところを考えていきたいと思っています。楽しくないとね。」
▼実行委員長の田中浩也教授
撮影:アミタ
また今後、サーキュラーアワードの取り組みを全国へ広げていくこと、その意義について次のようにコメントされました。
「循環は地域に合わせてつくっていく必要があり、ある地域の成功事例を全く同じ形で、他の地域に導入することはできません。今後はサーキュラーアワードを通して鎌倉以外の地域からもアイデアを募集するなど、いろいろな自治体間をつなげることで全国を盛り上げていきたいと思っています。」
今後もますます広がっていくであろう、鎌倉市とCOI-NEXTの取り組みに期待が膨らみます。
地域でサーキュラーエコノミーを推進するには
今回は鎌倉サーキュラーアワードと、鎌倉市で進む、市民の力を信じ応援する循環型のまちづくりについてご紹介しました。
地域でサーキュラーエコノミーを推進するために必要なのは、そこに暮らす住民の参画です。「循環」の本質が人と人との関係性にあることを考えれば、誰もがサーキュラーエコノミーの主役になれると言えます。今回受賞した取り組みのように、日常に根差した「一隅を照らす」取り組みや行動変容の積み重ねが、社会イノベーションに繋がるでしょう。
そのためには「これをやって貰えればサーキュラーエコノミーになります」といったお仕着せやレールを用意することではなく、一人一人が自分にできることは何かと自発的に考え、楽しみながら暮らし方を工夫し、誰かに自慢げに語りお互いを認め合える、そんな開かれた空間や場、余地を含めた仕掛けを用意することが必要です。それは新しいカタチのコミュニティや自治、市民と行政の関係性のデザインとも言えるでしょう。
関連情報
・鎌倉サーキュラーアワード
・JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT) リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点
執筆者情報
梅木 菜々子(うめき ななこ)
アミタ株式会社
社会デザイングループ
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