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OECMとは? 事業のサステナビリティを向上させる具体的事例を紹介!

Image by Matthias Cooper from pixabay

民間主体による生物多様性保全手法であるOECMは「その他の
効果的な地域をベースとする手段」という意味ですが、これは具体的にどういったことを指すのでしょうか。本記事では、OECMの概要や登録方法、日本における課題やその対応、企業の実際の取り組み事例などについて解説いたします。

TNFDを進める上でのポイントや、LEAPアプローチの実施方法を事例とともに解説したセミナーの動画を公開しました。

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OECMとは

OECMとは、Other effective area-based conservation measuresの頭文字をとったもので、国立公園などの保護地区ではないものの、生物多様性を効果的に保全しうる地域のことをいいます。具体的には里地里山、水源の森、都市の自然などがこれにあたります。この言葉は、2010年に名古屋で開かれた生物多様性条約締約国会議(COP10)で愛知目標を設定したときに生まれました。その時点では定義が曖昧でしたが、2018年の生物多様性条約第14会議(COP14)で以下のように定義が採択されました。

OECMの定義
"保護地域以外の地理的に画定された地域で、付随する生態系の機能とサービス、適切な場合、文化的・精神的・社会経済的・その他地域関連の価値とともに、生物多様性の域内保全にとって肯定的な長期の成果を継続的に達成する方法で統治・管理されているもの。"

OECMの3パターン

COP14で採択された定義によると、OECMは以下の3パターンに分けることができます。

①自然保護を目的に掲げているが、国が保護地域として認めていない場
例)先住民地域共同体の保全活用地、ナショナルトラストなどの民間主導の保護地域など

②自然保護が第1の目的ではないが、管理目的にあり自然保護に寄与する場
例)里山(農業)、企業緑地(従業員の健康や騒音対策)、遊水池(災害時の水量調節池)など

③自然保護を目的に持たないが、管理の結果として自然保護に寄与する場
例)茅場(茅を取るために火入れや刈り取りなどの管理がなされ、結果として希少植物などが生育)など

▼OECMの3パターン

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出典:日本自然保護協会

国立公園や国定公園では法令によって開発制限などの措置が取られるのに対し、OECMは民間企業や個人、地方自治体によって生物多様性の保全が図られています。既存の保護地域以外にも様々な場所が生物多様性保全に貢献していることに着目し、積極的に管理しようとするのがOECMなのです。環境省は国立公園などの拡充と並行し、OECMを通して30by30目標(2030年までに陸と海の30%以上の生態系を保全しようとする目標)を達成しようとしているのです。

関連記事:『30by30とは?企業の生物多様性の取り組み方についても解説

企業におけるOCEMの登録方法は?

では、OECMに登録されるためにはどうすればよいのでしょうか。
それにはまず環境省に申請を行い、審査を経て「自然共生サイト」として認定される必要があります。そして、自然共生サイトのうち、保護地域(国立公園など)との重複を除外した区域がOECMとして国際データベースに登録されるのです。
保護地域と自然共生サイト、OECMの関係については、下記の図を参照ください。

▼自然共生サイトについて

画像2.png

出典:環境省

自然共生サイトに認定され、OECMへ登録されるためには以下の4つから構成される認定基準を満たす必要があります。基準と簡単な内容は以下の通りです。

  1. 境界・名称に関する基準
    地理的に画定された区域で面積が算出されていること、名称がつけられていること

  2. ガバナンスに関する基準
    区域や活動に対して責任者がおり、ガバナンスが整っていること

  3. 生物多様性の価値に関する基準
    保全上重要な場や種、機能のうちいずれかを有していること

  4. 活動による保全効果に関する基準
    継続的、長期的な域内保全に貢献すること、外来種や密猟などの脅威への対策があること、モニタリングや評価が実施されることなど

なお2の、ガバナンスに関する基準においては、土地所有者と申請者が一致していなくても土地利用に関する意思疎通を図る機会があれば申請ができるようになっています。つまり自社所有の土地でなくても、自然共生サイトに参画することができるのです。

さらに詳しい内容については、環境省が公表している資料をご覧ください。
参考:自然共生サイト 認定基準

日本における現状・課題と今後の対応

自然共生サイトの認定促進についてはまだ課題もあります。具体的には申請から認定までの手続きを迅速に進められる体制構築や、各主体に対しての支援、そしてインセンティブ設計などです。活動の主体は国、自治体、企業や個人、自然保護団体など多様であり、自然に対する知識や情報収集能力、感じる負担などはそれぞれ違います。環境省は、保全活動の継続性担保や活動の裾野拡大のため、活動場所の状態や利用目的によって望ましい管理のあり方を示すべきであるとの見解を示しています。具体的な対応としては、法制化を視野に入れた検討を進めるとともに、申請時のサポートや、管理主体が自立・継続的にモニタリングができるような手法の開発やマニュアル整備も行うとしています。また企業に対しては、さらなる取り組み推進の仕組みづくりのため、活動をTNFD等に活用できるようなストーリー構築の支援や、自然共生サイトの支援を行った企業に対して、支援内容を証明する貢献証書制度の構築などを検討しています。

企業のサステナビリティを向上させる具体的事例

自然共生サイトは一定の基準を満たせば、様々な状態・性質の土地が認定され、企業の個性を活かした活動が可能です。ここからは実際に認定された企業の取り組み事例を4つご紹介します。

①横浜ゴム株式会社 茨城工場(工場緑地)
絶滅危惧種に指定されているサシバ(鳥)と共生できる工場を目指して工場内の適切な緑地管理を行っていたことから自然共生サイトに認定されました。敷地内の自然は常緑広葉樹、草地、水辺、里山林、クリ林など様々な二次的自然環境がモザイク状に存在しており、工場建屋も含めて多様な環境が形成されているため、サシバ以外にもカケスやヤマガラなど林を好む鳥や高いところを好むイソヒヨドリ、水辺を好むカワセミなど、様々な野鳥が暮らすことができる場になっています。また、茨城県の絶滅危惧種であるアイナエなどの水辺を好む植物も確認されています。工場敷地内は希少植物の盗掘の恐れがないことも、保護地として適しているのです。

②大日本印刷株式会社 市谷の杜(本社敷地)
本社がある市谷地区の再開発で創出した「市谷の杜」が自然共生サイトに認定されています。ここの植生は武蔵野の雑木林をイメージした地域固有の在来種からなっており、モノづくり機能を地下へ置き、高層棟を活用することで有効空地に緑地を造成しました。これは大都市の再開発における自然創出のモデルになる取り組みともいえ、周辺は住宅地域であり、新宿区内でも緑地が少ない地域にも関わらず、都市部の重要な生物多様性保全の場として機能しています。

③東洋紡株式会社 綾の森(社有林)
「綾の森」は、もともと化学繊維原料の自給を目的として保有された森林で、自然林に近い二次林と人口林が共存しており、クマタカ等の希少種やカシ類の巨木群を保全しているという理由から、自然共生サイトに認定されました。多くの日本固有種で構成される日本最大規模の照葉樹自然林が残され、貴重種が多数生息している「綾ユネスコパーク」と川を挟んで隣接するなど、動物の移動経路や利用域として保全の連続性・連携性を高めるとして重要な役割を担っています。

④日本テレビ放送網株式会社 所さんの目がテン!かがくの里(保全を支援する土地)
茨城県にある「所さんの目がテン!かがくの里」は、日本テレビ放送網株式会社によって申請、自然共生サイトへ認定されました。この事例は直接企業が有している土地ではありませんが、管理者が高齢になって荒れていた土地を、里山をテーマとしたテレビ企画の中で、様々な研究者、地元民の協力を得て、生物多様性豊かな里山へ再生したことから認定を受けました。専門家の指導や地域住民の協力により、継続的で効果的な保全活動が行われています。

企業敷地の持つ可能性

いかがでしょうか。上記事例で紹介した通り、企業の事業所内や工場内の緑地には生物多様性保全の場として活用しやすい特徴があります。地理的に土地の区画が決められていることや、責任者がいることでガバナンスを整えやすいことは自然共生サイトへの認定基準を満たしやすい要素であるといえるでしょう。また、希少種の保護においては、外部環境から隔離され、部外者の立ち入りが制限されていることにより外来種を防除しやすいことや、盗掘・密猟などの恐れが無いことが保護地としてアドバンテージになるのです。

工場緑地や工場からの排水を利用した水辺環境整備、その他の可能性については、過去の記事に記載があります。是非ご覧ください。

関連記事:生物多様性とSDGs(その4):望ましい「生物多様性オフセット」のあり方とは?

最後に

OECMは30by30目標達成のための重要なカギを握る取り組みであり、企業に対しても貢献への期待が高まっています。2023年9月にはTNFDの最終提言ver1.0が公開されたことからも、今後、企業のネイチャーポジティブ対応はさらに加速することが予想され、環境省としてもさらなる取り組み推進のための整備を進めています。TNFDなどのイニシアチブへ対応、情報開示をして終わってしまうのではなく、さらにその先にある自社事業変革のマイルストンとして、OECMへの登録を目指してみてはいかがでしょうか。

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執筆者情報(執筆時点)

山口 玲奈(やまぐち れな)
アミタ株式会社
サーキュラーデザイングループ インバウンドマーケティングユニット

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