ブレーキ役からハンドルをアシストする側へ。京都市が産業廃棄物の資源化支援に乗り出した理由

自社の廃棄物は、きちんとリサイクルされている。そう答えられる方は多いでしょう。

でもその中身はどうでしょう。焼却し熱を回収するサーマルリサイクルなのか、素材として再び世の中に還すマテリアルリサイクルなのか___本社からは「サーマルをマテリアルに変えられないか」という話が降りてきます。言われていることは分かる。けれど、何から手をつければよいのか。委託先を変えるべきなのか。判断の材料がない。多くの排出事業者が、この場所で立ち止まっています。


京都市は令和8年度、「産業廃棄物の資源化支援事業(専門家派遣)」を立ち上げました。専門家を現場に派遣し、リサイクルの可能性を調査する事業です。担うのは、規制を担ってきた環境政策局 循環型社会推進部 廃棄物指導課です。立入検査に来る側が、資源としての使い道を一緒に探す側に回ります。


ではいまなぜ「規制担当課」が、ここに乗り出したのでしょうか。事業を担う京都市の担当者に、アミタの木下と駒井が伺いました。あわせて、この事業の支援を受けた排出事業者の声(メーカーの担当者)も紹介します。

「それって、廃棄物指導課の仕事なんですか?」

まず伺ったのは、事業が生まれた経緯です。昨年、環境省の「廃棄物規制課」が「資源循環課」へと名前を変えたこともあり、国の働きかけを受けたのかと思いきや、市の独自の取り組みだといいます。環境政策に方針として書き込み、リサイクルのその先、マテリアルリサイクルへと段階を踏む設計です。

そして担い手は、規制を担う課でした。

京都市

元々、廃棄物指導課というのは基本的には規制側です。立ち入りに行っても、基本的には排出方法が法令に適っているかどうかという目で見ていく。こういうアプローチをするというのは極めてまれです。

排出事業者側からみても、行政との接点はこれまで「適正処理」が軸でした。この事業にエントリーしたあるメーカーの担当者はこう話します。

メーカー担当者

行政とは色々と相談したり、コミュニケーションをとらせてもらったりしていますが、やはり適正処理に関する話題が中心になります。


規制行政に馴染む事業もあります。電子マニフェストの普及促進なら、廃棄物処理法に基づく仕組みの実効性を高める仕事そのものでしょう。しかし、廃棄物をどう資源として使うかという話は、そうではありません。適正処理を守らせる課が、なぜ資源の使い道まで踏み込むのか。

京都市

廃棄物をもっと再資源化していこうとか、それって廃棄物指導課の仕事なんですか? 端的に言うとそんな感じです。従来の規制側の業務に具体的にどう結びつくのかが、やっぱり分かりにくいんじゃないかとは思います。

京都市2R行動ガイド『しまつのこころ得』

それでも事業を立てた背景には、市民との間で積み上げてきた蓄積があります。一般廃棄物は行政に処理責任があり、京都市は「しまつのこころ」とともに、プラはプラ、ダンボールはダンボールと、資源の種類ごとにきちんと分別する働きかけを長く続けてきました。

一方、産業廃棄物の処理責任は排出事業者にあり、行政の組織も分かれています。この領域には、行政として、これまであまり踏み込んでこなかった。その意識が事業の出発点にあったといいます。市民と積み上げてきたものを、事業者の領域にも広げる___この事業は、その一歩です。

ブレーキ役からの提案に、事業者は身構える

しかし行政の新しい試みは、ときに事業者が身構える理由にもなります。

同じような試みは、他の自治体や京都府内でも、他にもあります。ただ、規制を担う課そのものが乗り出す例は少なく、ふだん指導を受ける相手からの提案となれば、事業者が身構えるのも無理がないのかもしれません。

京都市

普段は規制する立場の課から「資源化しませんか」と声がかかるので、やっぱり事業者さんはすごく驚かれるんですけど。いつもはブレーキを踏んでいる側が、この事業ではアクセルを踏むようなものです。両方踏むと壊れてしまいます。だからそこは我々も“指導“と“支援“がちぐはぐにならないよう気を付けながら、事業者さんにアプローチしています。

規制するだけでは、車は前に走りません。かといって、規制と後押しを同時にやれば、事業者は戸惑ってしまいます。この矛盾を、担当者はアクセルではなく「ハンドル」を切るという比喩で整理しました。

京都市

これまでは、適正処理の観点から事業者さんが良くない方向にアクセルを踏んでいたら、そこにブレーキをかける。それが我々の役目でした。でも今回の事業では、資源の有効利用という観点から、ブレーキではなく、どうすればハンドルをいい方向に切れるか、その解決策を一緒に探すことができる。そういう取り組みとして受け止めてもらいたいと思っています。

左からアミタ駒井・木下と、京都市廃棄物指導課のお二人(アミタ撮影)

止めるのでも、急かすのでもなく、進む方向を一緒に変える。適正処理という前提は緩めないまま、より良い循環の在り方を探す。それがこの事業での市の立ち位置です。

もっとも、排出事業者も慎重です。資源としての使い道を探すことは多くの場合、新しい委託先の開拓を意味し、そこに新しいリスクが生まれるからです。

排出事業者責任は、委託した先の処理にまで及びます。新しい委託先で不適正処理が起きれば、責任を問われるのは委託した側です。長い付き合いと信頼の上に成り立つ関係を動かすことへの抵抗は、当然のものです。

では、何があれば動くのでしょうか。排出事業者責任とは、自社が出した廃棄物の行き先に対する責任です。法令を守るだけでなく、その資源が自社の後にどう扱われるかまで見る。廃棄する者としての責任と、資源を受け渡す者としての責任。その両方に応える形を外から一緒に探すのが、この事業の役割です。

「その話、どこに上げたらいいの」

現場と本社は、同じものを見ていません

この事業が難しいのは、話を持っていく相手の問題でもあります。

京都市

我々が排出事業者さんと接するときのお相手は、いわゆる廃棄物処理を直接担当されている方なんですね。でも、廃棄物削減とか有価物化とかCSRの領域は、別の部門・別の担当者という会社が多いですね。だから、そこがリンクしていない。いろんな企業さんと接する中でそう感じます。

一方には、廃棄物管理の現場があります。マニフェストを管理し、委託契約を更新し、立入検査に対応する。求められているのは、間違いを起こさないこと。もう一方には、サステナビリティ推進部や経営企画といった本社機能があります。統合報告書やCDPへの回答、取引先の要請のなかで「サーマルをマテリアルに」という要求が生まれる。求められているのは、数字が前に進むことです。

本社の要求は現場に降りてきます。しかし現場の担当者にとって、それは時として、日常的な運用実務の外にある話です。

京都市

担当者の方に今回の取り組みを話しても、日々の業務を司・司でやっているような中で、どこに上げたらいいのか、といった反応も少なくありません。

現場は動く権限を持たず、本社は現場の解像度を持たない。要求は出せるが、具体策は出せない。誰も悪くないのに、話が前に進まない。そういう構造です。

ただし、まっすぐ届く人がいます。京都市の担当者によれば、この事業がはっきり届くのは、自身・自部署だけでは解決しきれないと実感している現場担当者だといいます。メーカー担当者はこの支援事業のエントリーの経緯をこう振り返ります。

メーカー担当者

2030年の削減目標をどうすれば達成できるかを日々考えながら取り組んでいて、今回の支援でそのヒントやきっかけを得られればと思ってエントリーしました。私は入社3年目で、前任から引き継いで主担当をしています。現状の委託先やリサイクル方法のことは理解していますが、今以上の有効活用と言われると、何からどう手を付けたらいいのかという感覚でした。今回のような第三者視点を得られる機会があるなら是非受けたいと社内で話を進め、上司からも快く承認を得られました。

最適ってどういうこと?

事業の狙いを伺ったとき、京都市の担当者は国家戦略のような大きな話をしませんでした。

京都市

大所高所の大きな話ではなくて、やっぱり現実にそこに廃棄物があって、それが処理されていっているけれども、その処理が果たして最適なのか、というところですね。

いまのやり方、廃棄物の行方に、何か明確な問題やトラブルがあるわけではない。ただ、そのやり方は、果たして最適なのか。この問いが事業の核です。同じものに行き先はいくつもあります。埋め立てる。燃やして熱にする。素材に戻す。制度上はどれも適正な処理です。けれど燃やせば、熱が取り出せる代わりに、長い工程をかけて与えられた性質はそこで消えます。

モノの手放し方の最適性を、量や額ではなく、残せた価値で測る。すると、これまでどおり処理しているものが、まだ使い道の見つかっていないものに見えてきます。

使い道が見つかれば、扱いが変わります。もし処理を委託する「廃棄物」から、資源として引き取られるものになればどうでしょう。廃棄物としての規制が掛からない形にし、資源の有効活用につなげれば、コスト削減や業務量の軽減、場合によっては収益化につながる可能性もあると京都市は話します。

ここで大事なのは順序です。コストを下げるために資源化するのではなく、使い道を見つけた結果として、コストも下がる。処理費を比べるだけなら、いつもの相談相手(委託先)で足りるでしょう。しかし、見方そのものを変えるには、違う目が必要です。ここに、専門家を派遣する意味があります。

外から専門家の目が入ると、枠の外の選択肢が「この品目はこう分ければ、この行き先がある」という形で出てきます。しかも、それが報告書として残る。第三者がまとめた調査結果は、社内で話を通す材料になります。「どこに上げたらいいのか」という問題への抜本的な解決策になり得るかもしれません。同様の調査を受けたメーカー担当者も手応えをこう話します。

メーカー担当者

専門的な知見から、具体的な廃プラスチックの有価物化の進め方や、分別方法などを教えていただいて、取り組みが前進しそうに思えました。自分たちではこれ以上どうしようもないかと思っていたことも、廃棄物の置き場も一緒に見ていただき、直接リサイクルの可能性について説明をお聞きしたことで、「こう考えればいいのか」という視点をいただけたように思います。


アミタより:やり尽くした現場に、まだ残っているもの

専門家派遣を担当する立場から、現場の実感を添えます。可能性調査でお伺いするのは、資源としての活用に意欲をお持ちの事業者です。だからこそ、すでにかなりのところまで進めておられる。打てる手はもう打った、という手触りで足が止まっています。


ところが外から見ると、手を入れる余地は少なくありません。たとえば、未分別のまま積まれた廃プラスチックから発泡スチロールやロール状のシートを抜き出し、専用のコンテナと分別の掲示を用意する。それだけで有価で引き取れる可能性が出てきます。混ざっているから価値がないのではなく、混ざっていることが価値を隠しているだけです。廃液も、成分そのものより複数の酸が混ざり合った状態がネックになっていることがある。小容量の容器でしか受けられない品目も、他と合わせて引き取り可能になれば排出頻度とコストの見直しになります。


いずれも設備投資の話ではありません。見る角度を変えただけです。それでも「その視点は考えていなかった」という反応が返ってきます。長く同じ現場を見ていれば、その見方が身につく。きちんと管理してきた現場ほど、いまの形が最適に見える。だから、外の目を一度入れてみる価値があります。


「気になっているものがある」。それが入口です

理念だけでは、続きません。

京都市の担当者は、この事業をきっかけと位置づけます。資源に乏しい日本で、海外からの調達も少しずつ難しくなってきている。いま資源化に取り組まなければ、資源高騰のあおりをまともに受けてしまうという認識が背景にあります。とはいえ、社会的使命として語るだけでは足りない、とも話します。

京都市

個々の事業者さんの中で、常に問題意識として持っていらっしゃる部分があると思います。ただ、社会的使命、社会に貢献することと認識はされていても、やっぱり経営として成立していかなければ、その選択は難しい。たとえコスト圧縮からのスタートであったとしても、将来にわたって持続的に、資源化、サーキュラーエコノミー、さらにはマテリアルリサイクルへと繋げていただけるような、そんなきっかけになることが、一番大事なのかなと。



何か気になっているものがある。それだけで入口になります。

この事業がテーマにしているのは、適正に処理されているかどうかではなく、資源価値から見たとき、最善の行き先かどうかです。燃やして熱として回収するのか、素材として次に渡すのか、そして自社から出ているものが持っていた価値を、どれだけ残したまま次に渡せているかどうか___

まずは、自社からでているものを一覧にしてみてはいかがでしょうか。品目と量、いまの処理方法。並べたうえで、一つずつ問い直してみる。その問いに第三者の目を入れる場として、この事業があります。応募期間は令和8年11月13日(金)まで。

事業の概要

項目内容
事業名令和8年度 産業廃棄物の資源化支援事業
内容①資源化の可能性調査(専門家派遣)10社程度 → ②うち1社程度を事業化に向けて伴走支援
対象会社および会社に準ずる営利法人または個人事業主。京都市内の排出事業場から年間1トン以上の産業廃棄物を排出していること(感染性廃棄物および建設混合廃棄物は除く)
応募期間令和8年6月22日(月)〜11月13日(金)※予定数に達した時点で終了
問⁠い⁠合⁠わ⁠せ京都市 環境政策局 循環型社会推進部 廃棄物指導課/075-222-3957
詳細https://sanpai.city.kyoto.lg.jp/useful/shigenkashien/

話し手プロフィール(取材時点)

京都市 環境政策局 循環型社会推進部 廃棄物指導課

聞き手プロフィール(取材時点)

きのした いくお

木下 郁夫

アミタ株式会社 社会デザイン事業部

こまい まほ

駒井 真帆

アミタ株式会社 社会デザイン事業部