マニフェストは、適法性の証拠にしかならない ― PFAS問題から考える企業のサプライチェーン責任

マニフェストは、期限内に返ってきている。

委託先の許可証も、毎年確認している。

処理フローは記録として残っている。多くの現場で、廃棄物管理は「回っている」状態にあるはずです。

では、こう問われたらどうでしょうか。

10年前に処理を委託した廃棄物は、今どこで、どうなっているか。


答えられる方はどれだけいるでしょうか。
しかしそれは管理の不備ではありません。マニフェストが、そこまでを追う制度として設計されていないからです。そして今、この「追えていない部分」が、企業の責任として問われ始めています。


海外では、PFASを巡る訴訟が巨額化しています。米国では2023年、3M(スリーエム)が水道事業者との間で、最大約1.6兆円の和解金を支払うことで合意しました。デュポンなど化学企業3社も、約12億ドルで和解しています。


これは海の向こうの話にとどまりません。国内でも、あるフッ素化学メーカーが、過去に使用していたPFOA(PFASの一種)を巡り、周辺住民から公害調停を申請されています。同社は廃棄物処理法のマニフェスト制度に基づき、PFOAの処理をしっかり管理してきました。しかし現在、過去の使用や処理に由来する事柄で責任が問われています。


マニフェストで管理していたことと、将来にわたって責任を問われないことは、別の話になってきているのではないでしょうか。本記事を通じて、現代の企業の環境対応の在り方を考えます。

マニフェスト制度が管理しているのは「処理フロー」であって「リスク」ではない


マニフェスト制度は、廃棄物が誰の手で、いつ、どのように処理されたかを記録する制度です。処理の透明性を担保する仕組みとして、実務上欠かせません。

ただし、この制度が保証しているのは「処理の記録」までです。将来の科学的知見の変化までは、そもそも想定していません。

ここにPFASという物質の特性が重なります。

関連記事:PFAS(PFOS・PFOA)とは?国内外の規制や含有廃棄物についても解説


環境法分野に詳しい弁護士の川端健太氏は、PFASに関して「過去の行為と現在の規制が交錯する構造をもつ」と指摘しています。PFASは分解されにくい。体内や環境中に蓄積しやすい。発生源から離れた場所へも移動する。だからある時点の処理が適切であっても、その影響は時間差で、しかも別の場所で表面化します。


記録は「その時点」を証明しますが、一方でリスクは時間と距離を超えて広がっていきます。両者は、そもそも捉えている対象が違うのです。


では、マニフェストで処理の記録を残してきた企業に、なぜ責任が及ぶのでしょうか。

「適法だった」ことと「責任を問われない」ことは違う軸にある

ある化学メーカーの事例

このメーカーは1960年代からPFOAを使用し、その後は自社での製造も始めました。当時、この物質に今のような規制はありません。使用も製造も、その時代の基準では問題のない行為でした。


その後、PFOAの有害性に関する知見が国際的に蓄積されていきます。同社は国内での製造・使用を2010年代前半までに終えました。

そして2000年代後半以降の調査で、工場周辺の地下水から国の指針値を上回るPFOAが継続的に検出されます。同社も、自らが一因であることを認めています。近年、周辺住民数百人が環境調査や補償を求めて公害調停を申請し、その後も申請人は増えています。

つまり、行為が終わってから問題が本格化しています。


規制の有無は、責任の重さを判断するうえで重要な要素です。ただし、それだけで責任が否定されるとは限りません。当時の規制に適合していた行為であっても、現在の知見に照らして責任が問われる可能性があるからです。

適法性は「その時点の基準」で測られますが、責任は「今の基準」で問われます。そしてこの二つは、別の軸の上にあります。

「守り」の限界。 委託先の、その先の不透明性

同社はPFOA対策の開始以降、地下水の揚水・浄化や排水処理設備の整備を進めてきました。近年は敷地外への流出を抑える遮水壁の設置にも着手しています。対策費は数百億円規模にのぼります。排出企業としての責任を重く受け止め、企業責任を真摯に果たそうとしている姿勢がうかがえます。

ただし、これらの対策で向き合っているのは、この工場を起点とした汚染です。同じ構造の問題が“別の場所”で再び起きることまでは、防いでくれません。


環境省が2026年3月に発表した調査では、26都府県の629地点でPFASの指針値を超えていました。超えていた地点の多くは原因がまだ特定されていませんが、廃棄物の最終処分場や、廃棄物由来の再生品が使われている現場、そうした場所からの排水が原因として疑われる事例は、全国各地で相次いでいます。委託先の処理・再生の過程で何が起きているかは、排出した側にも見えにくいのが実情です。


今後、PFASの調査がさらに広がるにつれ、廃棄物や資源を取り扱う企業の管理のあり方が問われる事例は、これから増えていくかもしれません。

マニフェストは、適法性の証拠に過ぎない

こうした実態は、マニフェストが機能する範囲の狭さを打ち仕出しています。


マニフェストは自社の処理履歴を示す証拠としては、確かに機能します。一方で、その処理が将来にわたって企業の責任を問われないことまでは、保証しません。委託先のさらに先で何が起きているかまでは、この記録だけでは追いきれないからです。

自社工場を管理していれば十分だった時代から、委託先や取引先を含めた全体の管理状況を把握すべき時代へ。求められる管理の範囲は、確実に広がっています。


これは企業が捉えている感覚だけの話ではありません。EUでは2024年、人権・環境デューデリジェンスをサプライチェーン全体に義務づけるCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)が発効しました。国内でも環境省が2023年、「環境デュー・ディリジェンスに関するハンドブック」を公表し、バリューチェーン全体を対象にした対応を促しています。国境をまたいで、同じ方向への動きが強まっているのです。


範囲が広がると、次の問いが立ち上がります。広がった範囲を、どう管理すればよいのでしょうか。

廃棄物管理からサプライチェーン管理へ

問われているのは「処理」ではなく「説明できるか」

委託先の選定を見直す。契約条件を見直す。いずれも必要な手立てです。ただし、委託先のさらに先まで、自社が直接管理できるわけではありません。管理の範囲を広げようとしても、どこかで手は届かなくなります。だからこそ、問われる形が変わります。すべてを管理できていたかではなく、どこまで把握し、何を根拠に判断したのかを示せるかどうかです。


処理実績も、委託先情報も、原材料の由来情報も、書類として保管するだけでは必要な時に取り出せません。誰が、いつ、何を確認したいかを想定して整理し直し、検索・参照できる経営情報として蓄積すること。

それ自体が、将来のリスクを減らす備えになります。


一転、発想を変えてみると、この蓄積は守りのためだけのものではありません。

再生材をどれだけ使っているか。その資源はどこから来たのか。取引先からこうした情報を求められる場面は、すでに増えています。国際的にも、企業の資源の使い方を共通の基準で測り、開示するためのルールづくりが進んでいます。説明できる状態をつくることは、リスクへの備えであると同時に、これからの取引条件への備えにもなります。

PFASは特殊な話ではなく、化学物質管理全体の縮図

ここまでPFASを追ってきましたが、この構造はPFAS固有のものでしょうか。


おそらく違います。現在は適法であっても、将来の科学的知見や社会的要請の変化によって、責任の範囲が変わりうる。この構造自体が、これからの化学物質管理に共通する論点になります。


さらに踏み込めば、この構造は化学物質管理に限った話でしょうか。


これも違います。責任の範囲が使用後・時間差・場所の移動によって広がっていくのは、資源をどう扱うか全般に共通する構造でしょう。そう捉えると、これは規制対応としてのリスクだけの話ではなくなってきます。どこから調達し、どこへ資源を渡すかという選択そのものが、企業の機会にも直結してくるのです。


規制は、点から面へと変わりつつあります。設計・製造・使用・廃棄・再資源化という流れ全体で、規制が連鎖するようになってきました。個々の規制に個別対応するだけでは、追いつきにくい構造です。


また、2026年4月に政府が決定した循環経済行動計画においては、廃棄物を「処理すべきもの」ではなく「国内の資源ストック」として位置づけ直しています。規制対応の先に、資源をどう活かすかという機会が広がっていることの表れと言えるでしょう。


では、自社はどこから手を付ければよいでしょうか。


自社の資源(廃棄物)フローをどこから見直すか

ここで、見方をひとつ変えてみたいと思います。

工場から出ていくものを「処分すべき廃棄物」と見るか「まだ使える資源」と見るか。処分すべきものなら、関心はマニフェストが返ってきた時点で終わります。資源だと見るなら、それがどこへ渡り、何になったのかを知ろうとします。実際、自社では不要になったものが、別の企業では原材料として使われることは珍しくありません。

「処理が終わった」の先を把握する

マニフェストが証明してくれるのは、処理が終わったという事実です。例えば工場から排出された廃油が再生油にリサイクルされる場合、多くのケースでは、排出事業者に共有される情報は再生油になった時点までですが、いま必要になっているのは、その先の情報です。


その資源がどこへ運ばれ、誰の手で、何に生まれ変わったのか。再生油の例で言えば、その再生油は、焼却処理の会社で使用されるのか、セメントの焼成燃料の一部になるのか、製紙会社でボイラー燃料として化石燃料を代替するのか。燃焼の過程や燃焼後排ガスなどにおいて、廃油中の成分が影響を及ぼすことはないか。ユーザーに向けて順調に出荷されており、使用上のトラブルや、液体燃料からガス性燃料/脱炭素型燃料への切り替えによる先行き不安などはないかなど。


こうした情報はまず、リスク管理と説明責任のための情報になります。再生油のケースはユーザー使用後に残り続けるものはほとんどありませんが、再生砕石や再生プラスチックなどは製品として長く影響を及ぼすことも多く、管理や責任の重要度はより高まります。もちろんDPP(デジタル製品パスポート)などが整備されていない限り、つぶさに追跡することは難しいでしょう。しかし冒頭の問いを思い出してください。10年前に委託した廃棄物は、今どこで、どうなっているか。この問いに部分的にでも答えられる状態が、後から問われたときの裏づけになります。

同じ情報は、次の判断の材料にもなる

排出後の情報を追うことは、リスク管理と説明責任のためだけではありません。同じ情報を、今度は入口側から見てみます。

ある資源が、どこで再生され、何に使われているかが分かっていれば、次に同種の資源を調達するときの選定基準になります。同様に、自社の廃棄物をどこへ渡せば再資源化されやすいか、どう設計すれば回収後に価値が残るかも、行き先の情報があってはじめて判断できます。


つまり、リスク管理のために資源の流れを追うことと、資源循環のためにサプライチェーンを設計し直すこと。この二つは、別々の取り組みではありません。同じ情報の上に立っています。

出口の管理から、資源フロー全体へ

そう考えると、ここまで見てきた「処理」は、資源の流れのうち、外に出ていく一段階にすぎません。マニフェストが管理しているのも、この一段階です。PFASのように、調達段階や製造工程まで由来をたどられるリスクは、出口だけを見ていても十分に配慮できません。


だとすれば、見るべき単位が変わります。調達-製造-使用-回収-再生。ここまでを一つの資源フローとして捉える必要が出てきます。二つの事例が共通して示していたのは、自社工場の中だけでは管理しきれない構造でした。委託先や再生事業者を含め、資源が入ってから出ていくまでの流れを、自社の外へつながるものとして捉え直す。回収・再生処理を通じて自社のサプライチェーンと他社のサプライチェーンをつなぎ、資源循環として組み直していく。PFASのようなリスクへの対応は、最終的にこの設計に行き着きます。


▼サプライチェーンの再構築



作成:アミタ株式会社


まとめ


このPFAS問題からもわかるように、マニフェストで管理していたことと、将来にわたって責任を問われないことは、別の話になってきています。対策費や賠償の議論が本格化する前から、住民や取引先からの信頼はすでに揺らぎ始めているのかもしれません。


環境対応は長く、法令を遵守し、記録を整える「守り」の仕事として扱われてきましたが、いまその記録に求められる役割が段階的に広がっています。まず、行為時点で法令を守った証跡としての記録。次に、委託先の先まで説明できる情報。さらに、どこから調達し、どこへ渡すかを決める経営判断の材料。そして、資源循環を設計するための土台。同じ記録が、扱い方ひとつで、ここまで役割を変えます。


環境管理担当者・サステナビリティ部門に問われているのは、記録を残しているかどうかではありません。その記録を、書類のまま置いておくのか、判断に使える情報に変えるのかどうかが問われています。

記録が判断に使える情報に変われば、次の一手が見えてきます。リスクをどう抑えるかだけでなく、この資源を誰とどう活かすか。自社は、どんな循環価値を提供できる企業でしょうか。自社のサプライチェーンが、どこで誰とつながっているのかを眺めてみることから、始めてみてはいかがでしょうか。

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執筆者情報

  • おおしげ ひろたか

    大重 宏隆

    アミタ株式会社 おしえて!アミタさん編集部

    シナリオライター、Webプランナー等を経てアミタに合流。広報・マーケティング、ICTソリューションのインサイドセールスやサステナビリティワークショップのファシリテーターなどを経験し、現在おしえて!アミタさん編集部に所属している。

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